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 それから純平と航己は、会っていなかったここ数年に起きたことを語り合い。そして、明日に迫った「対話の場」についても話し合った。「敵と味方」ではなく、お互いの立場を考えながら、何がベストかを少しでも見出すために。  とはいえ、ここで何かの結論までを導き出せるはずもなく、航己は「これから青年団以外の代表との会合があるんだ」と、時計を見ながら呟いた。対話の場を明日に控えて、結束を高めると共に、作戦を練りあげる意味もあるのだろう。企業の代表と面と向かって話し合いが出来るという機会は、最初で最後なのかもしれないのだから。  純平もそれを聞いて、これ以上会話を引き延ばすわけにもいかず、航己たちとはここで別れようとしたのだが。そこでふと、航己に「あのこと」を聞いてみようと思い立った。岩場で出会った、心肺能力の高い、野性味を感じる魅力的な少女。地元の子らしかったし、航己なら知っているかもしれないと思ったのだ。 「岩場から海に飛び込んで、5分近く潜ってたって?! そんなことの出来る子は、”トッコ”しかいないよ」  純平の問いかけに、航己はそう即答した。どうやらあの少女は、この辺りでは「トッコ」と呼ばれているらしい。そしてやはり、それなりに「有名な子」なのだろうと。 「トッコってのは本名じゃなくて、たぶん『塔子(とうこ)』っていうみたいなんだけど。本人が自分のことトッコって言ってるからさ、みんなもトッコトッコって呼んでるんだ。昼間岩場に来ては海に潜ってるから、海岸沿いに住んでる人ならみんな知ってると思うよ。どうやら、学校にもあまり通ってないみたいだし」  学校に通っていないという話を聞いて、純平は「え、そうなんだ」と思いつつ。そういえば先ほどあの少女……「トッコ」が海に飛び込んでいた時間は、学校ではまだ午後の授業をしている時間帯だったなと思い出した。
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