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「まあそういう意味もあって、そこそこ有名な子ではあるんだけどね。あとは、あの子の家庭のことも色々あってね……」  航己は続けて、意味ありげにそう呟いた。純平が「家庭のことって?」と聞き返すと、航己は周りにいる青年団の衆を見渡しながら、「純平も覚えてるだろ? あの山の中腹にあった、動物園の園長の娘なんだよ」と、海岸沿いから左手の方を指差した。  その方向には、海岸線から連なる山肌を持つ、標高200メートルほどの小さな山があった。「小貫山(おぬきやま)」という名の山で、地元の小学生が遠足に行くコースとしても知られていた。  小学校の遠足コースとして利用されていたこともあり、今から25年前に、地元の観光局は小貫山の中腹に小さな公園を設営した。そしてその公園と併設する形で、こちらもこじんまりとした大きさの動物園が開館したのだった。  純平も航己も小さい頃は、その公園に行って動物園に入ったことが何度もあった。動物園といいつつサンショウウオのいる池や魚の群れが入った水槽もある、水族館も兼ねたような施設だった。しかしある時、この動物園で「事件」が起きる。  15年ほど前、動物園で働いていた青年が、園の内幕を地元の新聞社にリークした。その内容はなんと、「園長は動物園の地下で、動物を使った違法な実験を行っている」という衝撃的なものだった。小さな田舎町だけにその報道は瞬く間に地元中に知れ渡り、警察も園内の立ち入り調査をすることになった。    園長が実際に、動物園の地下で何かしらの実験を行っていたことは間違いなかった。ウワサによると、動物同士の遺伝子を組み合わせるといった、そんなタブーに触れるような実験を行っていたらしい。園長は、あくまで園の動物の健康を維持するための治療法などを研究していただけだと主張したが、騒ぎが大きくなったこともあり、結果として動物園は閉鎖に追い込まれることになった。
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