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 それ以来動物園に併設した公園自体も、何か「危ない場所」だと思われるようになり、地元の住人はほとんど寄り付かなくなって、現在は観光局も寂れた状態のまま放置している。閉鎖に伴い園内にいた動物は近隣の市や町にある動物園が引き取ったということだったが、その園長の娘が今もここにいるということは、園長もまだこの町に住んでいるのかと、純平は初めて知った。 「園長は今も、山の中腹の動物園跡で生活してるらしいよ。だから地元の人とも滅多に会うことはないけどね。トッコだけが海岸沿いに降りて来ては、海に潜ったりしてるってわけさ」  なるほどねえ……と、純平は自分の知らなかった「地元の話」に、感心するかのように深く頷いた。自分が町にいた時には「トッコ」の話を聞いたことがなかったので、恐らく都会に出た後に海に潜り始めたのかな、などと考えつつ。ふと気になったことを、航己に尋ねてみた。 「でもさ、動物園の園長って、独り身だった気がするんだけど。閉館した後に結婚したのかな?」  公園が開設された当時から動物園の園長として知られていただけに、奥さんがいるならそれも地元民の知るところになって当然なのだが、奥さんや家族がいるという話は聞いたことがなかった。閉館した後に結婚というのは考えにくいが、少女の年齢が中学生に入ったばかりだとすれば、それもあり得るのかなと純平は考えたのだった。 「いや、これもあくまでウワサなんだけどさ。どうやら園長はむかし都会に住んでいて、その時にすでに結婚もしてたんだけど、園長になったのは『単身赴任』だったってことらしい。で、奥さんが病気か何かで亡くなった後に、娘のトッコを引き取った……って話なんだけどね」  航己はそう言いながら、再び周りの若者たちを見渡し。それから「でも、そうじゃないかも? ってウワサもあるんだ」と、ニヤリと笑った。
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