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 長期に渡り集客が望めないと悟ったチェーン系のホテルは、海沿いの田舎町から早々に撤退を決め。夏場の売り上げがメインの稼ぎ時だった老舗の旅館も、苦しい台所事情が続いて一軒また一軒と閉館していった。このままでは、故郷が「寂れた田舎町」になってしまう。そう考えた純平は、故郷の旅館や商店街を後押しするような企画書を作成し、本社の企画運営部に提出した。もとより採用の可能性は低い企画だとわかっていたが、故郷を離れ都会に出た身として、何かをせずにいられなかったのだ。  コロナ禍の影響で売り上げ増は見込めない状況だが、だからといって切り捨てるだけの方策では限界がある。ここは逆に、同じく売上げ減に苦しむ地元密着型の旅館や商店などと手を組み、共に生き延びる道を見出すべきではないか。そんな地道な努力が、やがていつかコロナ禍が収まった時に、必ずや実を結ぶことになる。今は苦しくとも、長いスパンを見据えて「種を蒔く」時期である……と、我ながら苦しい「理由付け」だと思いながらも、よく知る故郷の商店街や旅館の実情などを例として挙げた、企画書を作成したのだった。  しかしこれが予想外に、本社上層部の目に留まることになる。だがそれは純平の想いや願いとは、全く逆のベクトルを向いた方針だった。夏場の海水浴客を頼りにしていた海辺の町が、経営難・財政難に苦しんでいる。ならばそれは、「海辺の町ごと買い取る」絶好のチャンスではないか。ベンチャー企業出身で、その手腕を買われて本社入りした剛腕の部長が、かねてからの自分の野望を達成する時が来たと、強引なまでのやり手ぶりを発揮し始めたのだ。  ただでさえ経営が苦しい時に、新規事業の立ち上げなどもっての外という意見も当然のように多かったが、部長は粘り強く「反対派」を口説き落とし。そして遂に、純平の故郷に一大レジャーランドを建設するという計画が、本社役員会で承認されることになった。
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