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「これはほんとに、信ぴょう性のカケラもない、ただの『噂話』なんだけどね。ほら、園長は違法な実験をしてるって話だったろ? 種類の違う動物同士の遺伝子結合を、どうのこうのって。で、トッコはやたら長いこと海に潜っていられるから……もしかしたら、魚とかの遺伝子を結合して、実験で生まれた子供なのかなってさ。なんか見かけも野性的だし、それなら学校に通ってない理由にもなるかなって」  航己はそんなことを言いながら、周囲の若者たちと笑い合っていた。航己や他の若者にすれば、単なる「タチの悪い冗談」なのだろうが。純平にすると、「これが田舎の悪いところなんだよなあ……」という思いだった。小さな田舎町は、地元民同士の繋がりも深く、レジャー企業に対する反発もそれゆえに結束力が高まったのだと言えるが。その反面、「外様」に対しては相容れないような態度を取ることがあるのだ。  地元の山で事件を起こした、都会から単身赴任でやって来た動物園の園長と、その園長の学校に通っていない娘。地元民にすれば、格好の「ウワサのネタ」でもあるのだろう。それを苦にして町を出て行ってくれれば、それこそ願ったり叶ったりだと、そこまで考えているかもしれない。  しかし、今は自分も都会暮らしをしているせいか、純平はトッコの魅力的で可愛い微笑みを思い出し、「そんなこと言うなよ」と航己に苦言を呈しようかと思った、その時。  航己の脇から、「そんなこと言うもんじゃないわよ」と、まさに純平の気持ちを代弁したような言葉が振りかかって来た。航己も純平も「はっ」となって声のした方を見て、純平は心臓に「グサリ」と矢を射られたような心境になった。  航己と純平の、視線の先にいたのは。航己と同じく純平の高校の同級生で、純平が都会に出るまで付き合っていた「元カノ」、柳葉(やなぎば)里緒(りお)だった。  
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