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「よ、よう柳葉……」  航己が珍しく、ちょっと自信なさげな声でそう答えた。高校時代から自分の言いたいことははっきり言うタイプで、柔道部の主将を務めたこともある、その思いきりの良さと力強さは。青年団のリーダーになるに相応しいリーダー気質というか、「昔ながらのガキ大将体質」である航己だが。そういったガキ大将を諫める「クラスの委員長タイプ」な里緒を昔から苦手にしていたことを、純平は思い出していた。 「よう、じゃないわよ。トッコちゃんのこと、遺伝子がなんたら実験がかんたらとか、知らない人にそんな風に言うのってどうなの? 純平くん、トッコちゃんのこと知らなかったんでしょ?」  里緒もまた、昔ながらの「キリッ」とした表情で、今度は純平にそう問いかけた。高校の頃は髪をお下げにしてメガネをかけていて、「真面目な図書委員」のようなルックスだった里緒も、今はコンタクトにしているのか裸眼でストレートの長い髪を降ろし、歳相応の、いや恐らくはこの町でも有数の美人として十分通用するような美しさを湛えていた。  そうなんだよな、里緒はメガネ外して髪を降ろすと、昔からめっちゃ美人だったんだよなあ……と懐かしい思いかられつつも、純平は「あ、ああ。さっき岩場のところでたまたま見かけたんで、航己なら知ってるかなと思って……」と、こちらも何か頼りなげな言葉を返した。 「ああ、悪かったよ。純平、さっき言ったことは気にしないでくれ。園長の娘だってことはほんとだけど、その後に言ったのは、俺や町の連中の、勝手な想像だから」  航己はそう言うと、「じゃあ、純平。”明日”な」と言い残し、他の若者たちと一緒にその場を立ち去っていった。航己も純平と里緒の「昔のこと」は知ってるから、航己なりに気を使ったつもりなのだろう。航己たちが去ったあと、青い海を左手に臨む防波堤沿いの通りに、純平と里緒の2人だけが残されることになった。 「久しぶりだね、純平くん。7年か8年ぶりくらい? あれから、それだけの月日が経っちゃったんだね……」
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