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 海風になびく髪を片手で軽く押さえながら、里緒はそう言って「にこり」と微笑んだ。昔ながらの長髪は、夕日に照らされてキラキラと輝いているようにも見え、純平はなぜか里緒の顔を真っすぐに見れないような、そんな心境に陥っていたが。同時に、里緒のしなやかな指に「それらしい」指輪がはめられていないことを密かに確認し、純平は少しだけ「ほっ」としていた。 「ああ、そんなに経つんだよな。里緒も元気そうで良かった」  なんとかそう絞り出した純平の言葉を聞き、里緒は可笑しそうに「ふふっ」と笑い。 「うん、あたしは元気よ。純平くんも、元気そう……って言いたいところだけど。本音を言えば、あまり元気ではないのかな?」  何か悪戯っぽくそう言った里緒の顔を見て、純平は更に「うっ」と言葉に詰まってしまった。先ほど航己と話していて、思わず涙ぐんでしまった場面を見られていたのかもしれない。そして、高校時代に「付き合っていた」頃から変わらぬ、自分の下の名前に「くん付け」の里緒の呼び方に、純平はあの頃の記憶を鮮明に蘇らせていた。  それはいま思い返せば、本当に「高校生らしい交際」だったなと、純平はしみじみ考えていた。高校の3年時、クラスの委員長になった里緒と、副委員長だった純平と。放課後などに2人きりで色々話し合ったりすることも多く、純平は里緒の真っすぐなものの考え方に、頭がいいだけでなく意思も強いんだな、成績の良さだけで委員長に選ばれたわけではないんだなと、驚かされたものだった。  そして純平は本当に何気なく、話し合いの後に、駅前のハンバーガー屋にでも寄ってく? と声をかけてみた。まあ真面目っ子だからあっさり断られるかもなと思いきや、里緒は少し戸惑ったような表情を見せたあと、「うん、いいよ」と頷いた。  純平は店に入ってから、小さなテーブルを挟んで里緒の正面に座り、学校で見せている生真面目さとは違う里緒の少女らしさ、可愛らしさに気付き始めた。
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