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 恐らく学校にいる時は、自分が教師たちからも真面目な子だと見られていることを意識して、その期待に応えようと頑張っているのではないか。それが証拠に、一度学校を離れれば、こんなにも魅力的な笑顔で微笑み、屈託ない笑い声を上げたりする。そして純平は店を出て里緒と別れる際に、「もっと一緒にいたいな」という気持が湧き上げっているのに気付き。「あ、これはもしかして、好きになったのかも」と意識し始めたのだった。  それから純平と里緒の「放課後のデート」は何回か続き、純平はある日思い切って、店を出た後に「俺、君のこと、好きになっちまった」と告白した。こうして放課後デートを繰り返しているとはいえ、明日登校すればまた委員長と副委員長の間柄だ。ここで「ごめんなさい」をされたら、クラスでも気まずい思いをすることになるかもと、これまでは我慢していたのだが。それでも、自分の気持ちを打ち明けずにはいられなかった。  里緒は純平の告白を聞き、すぐ隣を歩いているにもかかわらず、純平の方を見ることなく。本当に蚊の鳴くようなか細い声で、「……ありがとう」とボソッと呟き。それから、里緒にしたら最大限の勇気を振り絞ったかのように、「私も……私も、純平くんのこと、好きかも」と、付け加えた。  純平にしたらそれはもう、その場で「いやっほう!」と飛び上がってガッツポーズをしたいくらいの気分だったのだが、そこは懸命にこらえて「あ、ありがとう。こちらこそ」と言葉を返すのがやっとだった。お互いに気持ちを確かめたとはいえ、それからも放課後デートを繰り返すような「健全なお付き合い」ではあったのだが。とにかく純平は、好きな女の子と一緒にいられる時間が、日々の楽しみでありかけがえのないものになっていった。  しかしそんな「幸せな日々」は、長くは続かなかった。純平が卒業後の進路に、都内の大学への進学を考えていると知った時。里緒は寂しそうな顔をして、「そう……頑張ってね」とだけ答えた。
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