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 これは純平の、若さゆえの思い込みというか、考えの甘さも影響していた。里緒は自分と一緒に過ごすために、都内への進学を考えてくれるものだと思っていたのだ。純平は1人で勝手に、都内のアパートで里緒と会っている状況まで想像していた。  だが、里緒の家は文房具屋を営んでいて、地元の中学や小学校のすぐ前にある「柳葉文房具店」は、多くの生徒だけでなく先生方も足を運ぶ信頼の於ける店であり、同時に放課後などに生徒たちが集う憩いの場でもあった。柳葉家の一人娘である里緒は、両親からも周囲からも、自然と「店を継ぐ」ものだと考えられていたし、里緒自身もそれを受け入れるつもりでいた。そして純平もそれを知っていながら、それでも「自分と来てくれる」と思い込んでいた。  純平は里緒の「自分は、この町に残るから」という言葉を聞き、懸命に説得を試みたが、里緒の心は変わらなかった。一時は本当に、里緒が残るなら自分も都会へ出るのは辞めようかとも思ったが、里緒に「それだけはやめて」と言われ、純平もまた、自分の意志を貫くことにした。そして2人は卒業式の日を最後に、今に至るまで、別々の道を歩むことになったのだった。
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