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 卒業し純平が都内で1人暮らしを始めた直後は、お互いに近況をメールでやり取りしていたこともあったが、それもいつしか途絶えがちになり。1年が経過し、2年が過ぎる頃には、もう親しい間柄とは言えない関係になっていた。お盆休みや正月休みの同窓会、また地元での成人式などで帰省する機会もあった純平だったが、いざ故郷に戻って里緒とどんな顔をして会えばいいかわからず、そんな誘いの類をことごとく断っていた。  それゆえに里緒とこうして会うのは、本当に卒業後以来久々ということになる。純平が早めに防波堤沿いから引き揚げようと考えていた理由のひとつは、「里緒と偶然、鉢合わせしたりすることのないように」でもあった。  そして今、現実に里緒と再会し。純平は昔と変わらない、いや昔に比べて明らかに「大人」になった里緒を見て、その眩しさに、とてもまともに顔を見られないと思ってしまったのだった。ちょうど日が傾き、海面をオレンジ色に染める夕日が目に眩しい時間帯になったことも幸いし、純平は片手を目の上にかざしながら、里緒のことを見つめていた。  純平も里緒も、しばらくは何も口にすることなく、沈みかける夕日を見ていたが。そこで里緒が「ぽつん」と、純平に語りかけた。 「ねえ……この後、少し時間ある?」  純平はいきなりの里緒の「お誘い」に、かなりドギマギしながらも、「あ、ああ。特に用事はないよ」と答えると。 「良かったらさ……『あそこ』へ行ってみない? あたしも、誰かと一緒に行くのは、『あれ以来』なんだ……」  そう言って里緒は、純平の背後にある、小貫山の山裾に繋がる、海岸沿いを指差した。純平がトッコと出会った岩場の、更にその向こう。そこに、純平と里緒の「秘密の場所」があった。  防波堤から連なる岩場を越えたところで、海岸線は一度途絶え、山裾に繋がる「崖縁」になっているが。ほぼ一日中波が打ち付けるその崖縁に、小さな洞窟があるのだ。それは純平と里緒が、本当に偶然見つけた「隠れ家」だった。
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