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 元はと言えば純平が提出した企画書が発端だったので、当初は部長自らが純平に故郷の詳細を聞き取り、部長を始めとする視察団を故郷の町で案内する役目も果たしたりした。それも一重に、青く美しい海を持つ町を守りたいがための行動だった。だが、「海辺の町救済計画」がいつしか「一大レジャーランド建設」へと方針が変わりゆく中で、企画は完全に純平の手を離れ、気が付けば後戻りできないところまで事態が進展していた。  潰れそうな旅館や商店を何軒か買い取るのではなく、その地域ごと買い取ることによって、地域の売上げが全て本社に直結することになる。商店街は関連企業などの経営するお洒落な店舗に総入れ替えし、旅館やホテルもその経営権を買い取ることによって、同一のカラーを持った接客システムへと様変わりさせる。海水浴場にあった昔ながらの「海の家」なども同様で、海辺のカフェのような高級感・清涼感を醸しだす。  こうして海辺の町全体を「管理下」に置くことにより、この地を訪れる客にもメリットが生まれる。海水浴場を始め、商店街から宿泊施設まで全て割引が利く会員制度やフリーパスなどを設定することで、それぞれを利用したポイントを溜めることも可能になり、更なる特典も付随する。企業にとっても客に取ってもまさに「win-win」となる構造だと、部長は次々に反対派を説得していった。  企画が自分の手を離れ、純平は「なんだか凄いことになってきた」と驚くばかりだったが。仮にも「当初の企画発案者」として、レジャーランド建設の具体案を知ることになり、更なる衝撃が純平を襲った。部長が計画していたのは、商店街や海水浴場の店舗、旅館やホテルの「総入れ替え」だけではなかった。故郷の海が持つ美しい海岸線まで、一気に「変貌」させるつもりだったのだ。  純平が小さい頃から青い海を眺めていた、海沿いの防波堤。その近辺は全て更地にして、「海辺の遊園地」を建設する。海岸線も、遊園地に直結する船便を発着させるため、砂浜を埋め立てる。具体案は、純平にとって「そんな馬鹿な」としか思えない内容で埋め尽くされていた。
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