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 しかしすでに計画は、純平1人が反対したところでどうにもならない段階まで進められていた。故郷の町を、海を守るための企画が、いつの間にか「故郷をめちゃめちゃに作り変える」ものに変貌していた。部長はさすがに「元々の発案者」である純平の立場も考慮し(それはむしろ、発案者をないがしろにすることで自分への反発が強まるのを恐れてのことだったが)、自らの進める計画と無関係のいち社員ではなく、海辺の町と本社とを結ぶ「コネクタル・アドバイザー」という名目を企画の要職として新規に設け、純平を迎え入れることにした。  その辞令を受けた時、純平は辞退しようかと考えていた。故郷を助けるために少しでも役立てればと思って始めたことが、「自分の好きだった海辺の町が、根こそぎ消えさってしまう」ようなものになってしまった。壮絶な具体案を知ってからは、自分がその一因を作った者として、帰省するのを躊躇うほどだった。ここでこの辞令に従ってしまったら、自分は故郷にとって完全な「裏切者」になるのではないかと。  しかし、今や本社一丸となって進めている一大事業の、その「要職」に就くことを拒んだら。自分の出世の道は、ここで断たれてしまうのではないか。まだ20代後半という若さでこんな要職に招かれること自体が「大抜擢」なのに、もう2度とこんなチャンスはないかもしれない。いや、辞令を拒んだことで、これからずっと「閑職」に回される可能性だってある。純平は悩みに悩んだあげく、アドバイザーになることを承諾した。    こうして、「海辺の町レジャーランド化計画」の一員となった純平は。久しぶりに里帰りをし、忸怩(じくじ)たる思いで防波堤の上に立っていたのだった。ようやくコロナ禍が収まりを見せ、少しも賑わい始めた海水浴客も今は姿を消した、初秋の海を見つめ。このまま順調に計画が進んでいけば、今年中にもここでの工事が始まるだろう。そうなれば、もしかしたらこれが、昔ながらの青い海の「見納め」になるかもしれないという、そんな絶望的な思いに捉われていた。
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