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 今回純平が里帰りしたのは、もちろん単独行動ではなく。レジャーランド化計画の一員として、企画を推進する部長を始めとする、本社のそうそうたる面々との「訪問」だった。  すでに計画は地元議会の承認を得て、海岸沿いの土地も買収が進み、商店街の店舗や旅館もほとんどが本社の傘下に入っている。純平が危惧していたような「寂れた田舎町」になりつつあった海辺の町にとって、大金を落としてくれるという都心の大企業からの申し出を、断る選択肢などなかったのだ。  だがそれとは対照的に、町に住む「地元民」の反発は予想以上に大きかった。自分たちが愛していたこの町が、全く違うものになってしまう。それで確かに懐は潤うかもしれないが、本当にそれでいいのか。自分たちにとって、一番大事なものを失うことにならないか……? そういった反発は、純平が驚愕した「海岸線改造の具体案」が明るみに出てからよりいっそう強くなり、地元をあげての反対運動にまで盛り上がりそうな勢いだった。  そこで本社側が提案したのが、企業と地元民との「対話の場を設ける」という方策だった。その対話の場が明日、町の公民館で行われる。それゆえに、コネクタル・アドバイザーである純平も、「企業側の代表かつ、地元の内情も良く知る人物」として、お偉方と同行することになったのである。  なので純平もこの「対話の場」に同席するのだが、その場で純平が地元出身者として企業側に、もしくは企業の代表として地元の人々に、何か「アドバイス」をするという可能性は、100%なかった。対話は全て企業側の主導で進める形で行い、地元民からの質問事項も、予め提出することを義務付けられ。その質問に対する回答は、本社の雇った弁護士団が作り上げた文章を、一字一句間違えずに読むことが決定していた。つまり「対話」とは名ばかりで、その実情は「企業側の言い分を、地元民が一方的に聞かされる集まり」だと言ってよかった。
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