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 一番手前側にある岩に両足を降ろし、純平はふと、すぐ目の前にある「別の岩」まで飛び移ってみようかと思い付いた。だがやはり、「もし失敗したら」と想像してみると、1歩足を踏み出すのは躊躇われた。失敗したとしても、そう大ケガはしないだろうが、少なくとも腰から下は海の中に落ちて、びしょ濡れになる。そんな恰好でホテルに帰るわけにもいかないしな……と、そこまで考えた時。  純平から見て左手の数メートル先にある、海面から突き出て純平の背の高さくらいまである大きな岩の、その陰から。水着を着た1人の少女が、ひょっこりと姿を現した。自分がここに来る前からその少女がそこにいたのか、それとも気付かないうちに岩場まで降りて来ていたのか、それはわからなかったが。恐らく小学校の高学年か中学生くらいに見える幼い体つきと顔立ちの少女は、頭の上に乗せていた水中メガネを、「ぱかり」と顔の前に降ろすと。躊躇うことなく、「ざぶん!」と海中へ飛び込んだ。  その思いきりの良さに、純平は目を見張りながら「ほほう」と感心していた。岩場は防波堤から続く道路を背にして、穏やかな海面までおよそ5~6メートルほど続いている。その岩が海面から突き出ているエリアは、大人なら腰か胸の辺りまでの水深しかないのだが。岩が途切れた辺りから、急激に深くなっている。つまり先ほどの少女のように、思いきり飛び込んでも頭を打ったりすることがないのだ。  それもまた、この岩場が「子供たちには危ない」とされていた理由のひとつでもあった。うっかり知らない子供などが、岩場を伝って海に入ると、たちまち足のつかない深さの海水に全身を浸すことになる。それだけ危険な場所であるということなのだが、先ほどの少女は躊躇うことなく飛び込んだことから、恐らくはそういった事情にも詳しい地元の女の子ではないかと思われた。  と、純平はそんなことを思いながら、少女が飛び込んだ辺りを、なんとはなしに眺めていたのだが。飛び込んでからかなりの時間が経過していることに、ようやく気付いた。
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