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 目の前に広がる、水平線の果てまで続く、澄み切った青い色。  純平は小さい頃からこの青さが、そしてこの景色が大好きだった。   防波堤の上に立ち、そこから見渡す、生まれ育った故郷の海。純平は、この青さを守りたいと、そう考えただけだった。しかし……。純平はやるせない思いで、「はあ」と深いため息をついた。  桜木純平は、太平洋に面した海辺の田舎町に生まれた。田舎町は漁業よりも観光地として栄え、海岸沿いに多くの老舗旅館や、新たに進出して来たチェーン系のホテルが軒を連ねていた。夏になれば砂浜は海水浴客で賑わい、泊りがけで来た宿泊客たちは、旅館やホテルで「新鮮な海の幸」に舌鼓を打った。  純平はそんな故郷の町に愛着を抱きながらも、高校を卒業した後の進路に、 思い切って「都内の大学」を選んだ。中学高校と「優等生」として優秀な成績を収めて来た自分の可能性を、確かめてみたかったのだ。若さゆえの冒険心というか、若さゆえの「慢心」も、少なからずあったかもしれない。  地元からは過去に数名しか合格者がいないという、担任の教師から「厳しいぞ」と忠告された難易度の高い大学に挑戦し、見事に合格を果たした。更に自分の可能性に確信を得て、期待と緊張感を胸に上京。慣れない都会暮らしに戸惑いながらも、持ち前の明るさとコミュニケーション能力でなんとか乗り切り、卒業後は都心にある大手レジャー企業の本社に就職することが出来た。ここまでの人生は、純平にとってまさに順風満帆だったと言えるだろう。  だがそんな順調さが、ある時を境に一変する。世界中を震撼させた、あの忌まわしきコロナ禍。近隣から遠方まで、広範囲での集客を最大の資金源とするレジャー企業にとって、試練の時が訪れる。本社は長引く売上げ減に対応すべく、退社希望者を募るなど苦肉の策に追われ始めた。そして同時に純平の故郷に於いても、最大の試練が振りかかって来ていた。
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