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史之の問いに率直に多香子は答えた。
「本心を言うとそのつもり。恋すらしていないかったのかもしれない。きちんとスキって言えないままだった」
「会って、謝りたいの」
うつむきながら話す多香子に、史之はあっけらかんとしていた。
「僕とは、やり直すこと考えてくれないか」
「友達からなら」
「それならもう友達だろう。付き合うのは」
「私、二股になっちゃう」
この男は不思議と自信過剰だと、多香子は改めて感じていた。多香子が史之を思っているのは、当然だというようだった。
「僕はその男の存在を知ってるし、その男も僕がいることを知ってる。君の一番になれるのは、誰かなんて君にだってわからない、だろう」
「でも」
「僕は君を諦めたくない」
「考えさせて」
「良い結論を待ってる」
史之といざよりを戻すとなると、晴久と体の関係を持ち続けるのはどうなのかと、気が重くなった。かと言ってどちらに決めることもできない。愛しているのは史之と言っても、晴久と会わないということも、心が辛くなっていた。
「ラインで連絡するから。ブロックを解除するね」
「わかった。もう近くまで来た」
「ここでいい。あの惣菜屋さんによって行くから。ありがとう」
言い終わると多香子は車から降りた。そして去っていく史之を見つめていた。
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