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ハイボールや焼き鳥等を注文すると、ため息混じりに正弘が口を開いた。
「やっぱり俺たち駄目か」
「ごめんなさい。夏川さんとよりを戻すことになったし、それに」
「それにって」
「正弘の思っている女じゃない。もっと欲しい物に貪欲なのかもしれない」
まっすぐに正弘の目を見て言った。自分の本当の姿は決して清純な女ではない。多香子は男から得られるものだけでは、満足しない女になっていた。
「他にも付き合っている人がいるって」
「そう。言ってみれば身体が先の関係」
「いつからなんだ」
「……。この前京都に行ったとき」
「そうか。俺じゃ満足できなかったということか」
「……。ごめんなさい」
頭を下げて謝っていた。これしかできない。
「しょうがないよ。こうして会って話をしてくれた。多香子の誠意だろ。俺はこれで満足しなきゃいけないな」
正弘は真摯に受けてくれた。嫌いにならずに良かったとおもった。
「ありがとう。この後は」
「気が向いたとき、あってくれればいい」
「ありがとう。それじゃぁ帰るね」
「金はいい。何かあったら奢ってもらうから」
「ありがとう」
「今日は素直なんだな」
「うん。それじゃ」
頼んだハイボールは飲んで、多香子は席を立った。
寂しさも幾分あったが、ここの猥雑なネオンに置いていこうと思った。風は生温くて体にまとわりついて、まるで何かが縋っているようだった。
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