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「もう一つ、いいか?」
ここまできたら、いくつでも何を聞かれてもいい。ネイトには、シェリルが隠し持っている能力について、誤魔化すことはできないのだから。
シェリルが頷くと、ネイトはやんわりとシェリルの髪を梳く。ネイトを見ると、穏やかな表情でこちらを見つめている。
「シェリルの魔法属性は、土だと聞いている。他の二人は風と水。彼女たちは、それぞれ一属性しか持っていないが、シェリルは違うな?」
魔力量だけでなく、持っている属性までも視えるのか。
シェリルは、観念したように再び頷いた。
「ネイト殿下、このことは……」
口を挟むセドリックを手で制し、ネイトはわかっているというように大きく頷く。
セドリックは口を引き結び、拳を握りしめた。ローザの表情も硬い。そんな二人を見て、ネイトは二人のこれまでの心労を慮った。
所持する魔法属性は、多ければ多いほど有用性が高い。だが、魔力もかなり消費する。なので、属性を複数持つ者は魔力量も多い。
魔法が使える魔力量を持つ貴族でも、属性は大抵一つだ。王族なら二、三持っているケースもある。
クラーク王は、二つ「火」と「風」を持っている。王妃エリアナは「光」だが、これは後天性のものである。聖女となって国を護るようになり、得た属性だ。
光属性というのは、最初から持つ者はほぼいないとされ、修行の後、会得するものとされている。だから、エリアナの元の属性はすでにわからなくなっているのだが、息子たちの属性を鑑みると「水」は持っていただろう、とネイトは推測していた。
聖女として光属性を得るためには、かなりの魔力量を必要とする。だから、聖女候補には魔力量の多い子女が選ばれるのだった。
あともう一つ、持っている属性が多ければ更に良い。光属性を得る修行が、一つより二つ、二つより三つというように、多い方が早く終わると言われているからだ。
シェリルは、膨大な魔力量を持って生まれてきた。母子ともに何の障害もなく、元気であることが奇跡というくらいに。
そして、生まれてすぐにわかった。彼女の魔法属性は、一つではないことを。
「私は、土、火、風、水の四属性全て持っています」
「やはり、な」
シェリルの告白に、ネイトは動じない。視えているから当然なのだが、ネイトは、シェリルの口からきちんと聞きたかったのだ。
「検査の時も、隠していたのか?」
「四属性持っていることがわかってから、土以外は抑え込む訓練をしていたから」
最初の魔力検査は、五歳に行われることになっている。その後は、十歳。次は、成人する十八歳だ。
最初の検査から隠しおおせたのだとすると、魔力の調整について、相当の努力を強いられてきたはずだった。
ネイトはシェリルの髪を梳きながら、瞳を細めた。
「頑張ってきたんだな」
「私はっ……」
声を震わせるシェリルを、ネイトはきつく抱きしめる。きゅいが、慌ててシェリルの膝からソファに避難した。
危うく潰されかけたきゅいは不機嫌そうな声をあげるが、すぐにピタリと体を寄せる。きゅいとしては、シェリルを後ろから抱きしめているつもりなのかもしれない。
「わかっている。ただ、確認したかっただけだ。このことは誰にも言わない。王にも、神殿にも」
「ありがとう……ございます」
ネイトはシェリルだけを見つめていたので知らなかったが、セドリックもローザも深く頭を下げていた。
シェリルは、魔力量と属性を隠してまでも聖女になりたくなかった。そして、両親もその想いを汲んでいた。
これが、ターナー家の総意だ。となると、ネイトのやることは決まっている。
「シェリルは絶対に聖女にしない。クラーク王家にはやらない。俺とシェリルの婚約に横槍を入れてきたとしても、俺が跳ねのけてやる。俺の持つ権力全てを使ってでも」
ネイトの瞳が、挑むようにギラリと光った。
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