20.王家の対立

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 側近の言いたいことがわかるのだろう、コンラッドは、彼に向かって苦笑いを浮かべた。 「もちろん、喜んで王家に嫁いでくれた聖女もいる。生家もそれなりに恩恵を受けただろう。それに、彼女たちが率先して国を護ってくれたからこそ、クラーク王国は小さいながらも独立国として存在できた。彼女たちに対する敬意は失ってはいないさ」  そう言いつつも、コンラッドは僅かに眉を顰める。 「しかし、このままでいいとは思わない。聖女だけに護りを任せることもおかしい。そして一番は……クラーク王国内だというのに、護りから除外され、だからといって優遇されるでもなく、他領と同じく税を徴収される領地が存在すること。自領の騎士団が魔物を討伐し、恵まれない土地ながら様々な工夫で成り立っているというのに、他の貴族たちに尊敬されるでもなく逆に蔑まれていること。……信じられない。聖女に護られることに慣れすぎた我が国は、どこか歪んでいる。そうは思わないか?」 「……殿下のおっしゃることも、わからなくはございません」  側近は、そう答えるのが精一杯だった。  これまでずっと、この方法でやってきた。これで国は維持できていたのだ。だから、彼はそれ以外のことを考えたことなどなかった。 「シェリル嬢が聖女候補だった時、彼女は一番可能性が低いと考えられていた」 「はい」 「魔力量は他の二人とそう変わらなくとも、爵位の上で彼女は不利だった。その上、彼女はターナー男爵家の令嬢だ。他の貴族から「国から見捨てられた」と陰口を叩かれている、ターナー領の娘。候補にはなれど、私の妃にはありえない、皆がそう言っていたのを私は知っている」  コンラッドの言うとおりだった。聖女、そして王太子妃となるのは、アシュトン侯爵令嬢かピアース伯爵令嬢のどちらかだと、皆が思っていた。  しかし、漆黒の卵の出現で、それは見事にひっくり返されてしまう。 「ネイトが聖獣の卵を見つけたというのも、何かの巡り合わせだったのかもしれない」  独り言のようなコンラッドの呟きに、側近はハッとする。  漆黒の卵の出現は、今から考えても摩訶不思議な出来事だった。  神殿の裏庭には、滅多に人は訪れない。だが、裏庭とて一応神殿の敷地内に入るので、きちんと手入れはされている。あまり人が訪れないといえど、誰かしら毎日一度は必ず向かう。  その者たちに尋ねてみたが、漆黒の卵を見た者はいなかった。それなりの大きさだったので、見落としたとは考えづらい。にもかかわらず、誰の目にも留まらなかったのだ。  ネイトだって、その日神殿の裏庭に行ったのは、ほんの偶然、気まぐれのようなものだった。そこで、卵を見つけたのだ。  こう考えると、卵はネイトに見つけてもらいたかったかのようで、コンラッドの言う「巡り合わせ」というのも、大いに頷けた。 「お前にもいずれ話すが……これまで聖女とされていた彼女らは、自らの努力で聖女となった者たちだと、私は考えている。ゴード神に選ばれたのではなく、王家に選ばれたが故、努力を強いられた者たちだ」  側近は息を呑む。そしてコンラッドは、遠い目をして、窓の外を見つめていた。 「シェリル嬢は、聖獣の卵を孵し、生まれた聖獣に慕われる、真の聖女だろう。だとすれば、我が国の法で縛り付けることなどできるはずもない。強行すれば、衰退を招きかねない。彼女を、これまでのような聖女にする訳にはいかないのだ」 「殿下……」  コンラッドは王太子として、それを断固阻止せねばならない。  だから、これから戦うのだ。現聖女とともに。 「陛下を説き伏せてくる」  静かだが、強固な決意。  それをしかと感じた側近は、深く深く頭を下げ、コンラッドを見送るのだった。
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