1人が本棚に入れています
本棚に追加
知り合い
「藤堂パーンチ」
城所カナは最近クラスで一緒になった藤堂に抱き着く。
「はいはい、分かった分かった」
気に食わない。もう半年たつのに一度だって名前を呼んでくれない。
細身なのに体幹がしっかりしていて、抱きついても体がぶれない。もういくら本気で行っても飛ばされない安心感。
「城所、もう止めなって。鉄仮面に手を出すだけ時間の無駄だよ」
鉄仮面って藤堂は言われている。
へぇー、私しか知らないんだ。
美術室で石膏を見てニヤニヤするところ、地面を見てニヤニヤすると思って藤堂の去った後を見るとアリにカマキリが食われていた。
確かに感性は変わっているが、美術の花澤先生と生物の石田先生が好きなのを私は知っている。
ま、その為に石膏を見に来たといって嘗め回すように石膏を眺めて引かせていたり、採取したアリを持って行って引かれたりしている。
それを本人は気づかずに石膏を眺め、アリを採取し続ける。
なお、美術の花澤先生はデッサンが得意で、生物の石田先生は植物が好きだ。そういう詰めの甘いところに好感を持てる。
「ねぇ、藤堂」
中庭にいるのを校舎から見つけてわざわざ降りてきてやった。
「なに? 今日は抱き着いてこないの?」
「あんた男子高校生でしょ。こう一人の乙女を見てたぎる物はないのかね」
「無い。昼休みも終わるよ」
藤堂はさっさと去っていった。気に食わない。
「あのさ、花澤先生はデッサンが好きで石田先生は植物が好きだよ」
と、背中に言葉は投げた。
「鉛筆と葉っぱは苦手なんだ。忠告はありがとう」
押しつけがましい一方通行の憧れだ。せめてちゃんと好きな人沿うようにしないと。
「カナ元気ないね。愛しの藤堂君がいないから?」
藤堂はあれから早退した。
「タックルをするにはちょうど良かったから」
「はいはい」
次の日も藤堂は教室にいなかった。なんだかおかしい、クラスに人がいないのだ。
「カナ、大変」
「なに?」
「さっき教室で藤堂が告白宣言したの」
「は?」
「美術の花澤先生」
デッサンをせずに告白するのか。
「屋上に見に行こうよ」
見に行かないと後々面倒そうだ。女子の世界は面倒。
ちょうど山場らしい。
「先生のことを入学した時から好きでした」
結局、袖にされて終わるだろうが、みんなざわざわしている。
「生物の先生もいるぞ」
「いや、君くらいの年の子が大人を好きになる理屈は分かるが、これは少し度が過ぎないかい?」
確かに生物の石田先生の声だ。
「なんでですか」
「ほら、結構ギャラリーがいるみたいだしさ」
「僕は選べません。どちらの先生も好きなんです」
胸がチクりと痛んだ。体幹がしっかりしていて、いまだに名前を呼んでくれない。抱き着いても大して反応もしない。むかつく、その藤堂の気持ちをいなしてしまう。
そんな二人の先生が憎い。何でももう少し真剣に考えないの?
藤堂の馬鹿、そんな大人じゃなくてもっと私を見てよ。石膏を一緒になぜてあげるし、本当は嫌だけどカマキリなんていくらでも捕まえる。
明日も抱き着いてあげる。いつか藤堂は気づくんだ。俺、カナの事は好きだって。私は隣に友達がいるのに静かにつぶやいた。
「きみのことがすきだよ」
最初のコメントを投稿しよう!