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1.変身!
「おはようございます。お名前とお年は?」
看護婦の朝の問診。
「かわ・・・あきら。歳は29で・・・」
淡々と答えた。
問診が終わって、看護婦が去る。
ベッドで大の字に寝て、顔を回して病室を見た。
となりのベッドで、オヤジがスマホのニュースを見ていた。
『最新の映像です。中国の全人代の会場にて、前書記の馬黄家氏が退席の途中、熊のように魔物化します。現共産党主席の周金丙氏を引き裂き、殺してしまいました。会場は大混乱です』
がははっ、オヤジが笑う。いつの世も、他人の不幸は蜜の味だ。
加和旭(かわあきら)は・・・以後、アキラと書く。彼は自分が入院に至る顛末を思い出す。
休日の朝、アパートの隣室が騒がしい。ぐおおおっ、何かが吠えた。
壁を破り、魔物が襲ってきた。大きな牙を口にはやしたオオカミのような、四つ足の魔物だ。隣室の住人が魔物化したらしい。
殴られ、蹴られ、噛み付かれて、身動きできなくなった。アパートが燃えた。火と煙に体が包まれた。
気がつけば、病院のベッドだった。
体のケガは軽いほうだったが、どうも・・・記憶に障害が出ている。比較的に最近の事はおぼえている。名前とか、歳とか・・・
でも、遠い過去が・・・どこで産まれて、親はだれか、兄弟は、学校は、どう育ったか・・・思い出せない。
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