1.変身!

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 軽い朝食の後、また看護婦が来た。 「加和さんは、今日で退院ですね。荷物をまとめて、会計手続きをお願いします」  はい、と答える。  アキラの荷物はバッグがひとつ。誰が持って来てくれたのか、記憶も定まらない。  着替えて、病室から廊下に出た。 「だから、どうなってんだ!」  別の病室のオヤジが、スマホを相手に怒鳴っていた。声が廊下中に響いて、耳が痛くなる。 「きさまあ、おれを誰と思ってやがる。おれが本気になった、らっらっ・・・!」  舌がもつれた。入院するまでは会社で無敵の存在・・・のはずだった。会議中に倒れて、緊急搬送、脳梗塞と診断された。後遺症の半身麻痺で、顔としゃべりに難が出た。  プツッ、相手が電話を切った。  怒りが体に満ちる。しかし、半身麻痺では、怒りを誰かにぶつけることもできない。  と、オヤジの体が変異した。人ではなくなり、ゴリラを超える巨躯の獣になってしまった。 「魔物化した!」  廊下にいた患者が叫んだ。皆が逃げ出した。  ゴリラ魔物が腕を振った。コンクリートの床が割れ、壁や天井のパネルが崩れて落ちる。豆腐か紙を裂くようだ。  アキラは足がすくんでいた。逃げようにも、手も足も動かない。  がつーん、魔物の腕が顔をたたいた。衝撃に、頭の中が白くなる。  ぐおおおっ、魔物が牙を向けてきた。頭に噛み付いてくる。 「うるせーっ!」  アキラは右手で反撃した。   ぼん、魔物がふっとんだ。  あまりの呆気なさに、自分の右手を見直す。ほとんど魔物の重さを感じなかった。  ずずず・・・魔物の体が煙りをまいて消えていく。  床に、スマホだけが残っていた。静寂が廊下に広がる。  呆然と見ていた。 「ありがとうございます、助かりました」  看護婦が礼を言う。  患者の1人が消えた、建物に傷が入った。病院としては、別の問題が発生しただろう。 「保険会社からの仮払いで、当院での会計は終了しています」  病院の会計で言われた。  頭を下げ、病院を後にした。  まだ昼前、高い太陽を見上げて、どこへ行くか考えた。  アパートに帰ろう。  アキラは結論した。  故郷は思い出せないが、つい先日まで住んでいた場所くらいは分かる。
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