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想
その傷口が、消えなかった。
何日たっても、何年たっても、何をしていても。
それなのに、腕の傷を見ている時だけ、私は「生きている」を感じたのだ。
私は生きなければならない、彼のために。
満月が近づくと、傷は痛みを増し、頭は重く、呼吸さえもままならなくなった。
それでも、痛みの中に彼がいるから。
私は生きられる。
誰にも必要とされなくたって、さみしさと切なさと愛で、私は生きられる。
あの月の灯りの中佇む彼の横顔が、脳裏に蘇る。
さみしさで染まったような雰囲気と声、醸し出す全て。
誰も知らない私の気持ちは、私だけが知っていればいい。
そして満月の晩に、一人涙を流せばいい。
そしてもし、彼のあの問いかけに、迷わず答えられるようになったら。
満月は、私が歩く道を示してくれる。
一か月に一度、思い出させてくれるのだ。
私にとっての、大切なものを。
満月前症候群、+a。
痛みだけが、私を生かす。
ふと空を見た。
明るく澄んだ空に、鳥が一羽、羽ばたいていく。
もう夜は、明けたようだった。
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