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満月を見ると、思い出すことがあった。 思い出す、は間違っているのかもしれない。 嫌でも思い出してしまうのだから。 もう忘れたかった。 あんなに美しい夜を、過ごさなければ― きりきりと痛む頭の隅で小さく考えながら、カーテンをめくる。 そこにあるのはこれ以上ないと言っていいほど満ちた、黄色い天体と漆黒の闇。 夜風がドアの隙間をすり抜けて届き、私の頬を厭らしく撫でる。 私には昔、妄想癖があった。 気が付くと意識が飛んでいて、あることないこと考えを巡らせる。 それが一番の楽しみだった。 周りから話しかけられることも少なく、教室でも一人妄想に耽り過ごしていた。そんな学生時代だった。 どこかにエスパーがいない限り、口に出さなければ、どんな想像でも空想でも妄想でもしていられる。 なんて素敵なことだろう、と思っていた。 友達のいない私は、それに縋って生きてきた。それなのに。 現実のかなしみと、人のつめたさ。 それがきっと、私を壊した。 空想世界の幻が崩れ落ち、それに気が付いた時。 人生に色を付けてくれるものは、何かないのだろうかと模索した。 何も見つからなかった。 もう分かってしまった。気付いてしまったのだ、私は。 楽しくて幸せで泣きそうなほど嬉しい夢を見て、覚めた時の落差で涙が出た。 叶わない幸せを願うのも、想像するのも、もうやめた。 小説を読むのも、映画を見るのも、嫌だった。 羨ましいなぁ、良いなぁと思ったらそこで終わり。 その先を見ないように、触れないように生きることに決めた。 それなのに、あの人の幸せに足を踏み入れてしまったから―
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