第1話 都市伝説研究部、部室を失いそうになる ②

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第1話 都市伝説研究部、部室を失いそうになる ②

「ではこれより、北塔高校総部会をはじめます。起立、礼」  生徒会副会長、椚座祐一の号令を受けて、大会議室に会した全部活、全委員会の長たちは立ち上がり、礼をする。  北塔高校総部会。  生徒会の音頭で週に一回程度開かれる大会議である。  北塔高校は、総生徒数が千五百人を超えるマンモス校だ。  そして、原則として生徒は皆、いずれかの部活ないし委員会に属することが義務付けられている。  なれば、この総部会の決定こそが、学校そのものを動かすといっても過言ではない。  次に、この会議室における長たちの、座する位置関係について記しておこう。  別に、明文化されたルールがあるわけではない。  だが、暗黙のうちに、学校内で強い権力を持つ団体ほど、生徒会の近くに座り、弱小な団体ほど遠くにやられるという構図が存在していた。  生徒会の手前に座る二人の人物。すなわち、この二人が率いる部活こそ、北塔高校の二大勢力であった。 『報道部』。かつての新聞部、放送部など、情報を発信する活動をしていた団体が統合し、できた部活である。学校の著名人のスキャンダルから、惚れた腫れたの恋の噂まで、暴けるものは何でも暴き、情け容赦なく拡散する危険な集団だ。倫理的に問題のある活動も多いが、部員数が百名をこえる大規模勢力であること、そして、その高い調査能力が時として学校に利益をもたらしていることもあって、ぎりぎり自由な活動を黙認されている。 『公安部』。生徒会直属の機関であった風紀委員が、部活として独立したものである。こちらもまた、百名をこえる大勢力であり、強い正義感をもった者達の集まりだ。学校の秩序維持、不正の摘発やいじめの撲滅に尽力し、皆が平穏に過ごせる環境を維持する。そんな崇高な理念のもとに日々活動している。それは本来、教師がやるべき事ではないか、ということまでやっているが、教師陣は生徒指導の先生を筆頭に、麻雀に忙しくてそれどころではないのである。  ちなみに、都伝部はというと、この二つの部活とは比べるべくもないゴミカスなので、部長たる及川は生徒会からもっとも離れた席に座らされていた。  副会長は、全員が着席したことを確認すると、まずは直近で成績を残した部活の紹介を始めた。その横で、生徒会長の椚座栞は「すごいですね!」と嬉しそうに手を叩いている。  及川もまた、余裕の表情で拍手を送る。  今回の総部会は、それほど時間をかけずに終るだろう。何故なら今回の議題自体が、この後、撤回されるのだから。  そう考えて及川はほくそ笑む。  そのためにとった手段を思えば正直情けない。だが、今はひとまずの危機を脱した安堵に彼は頬を緩めた。 「では、今回の総部会の議題についてですが……」  副会長は、一通り成果発表を終えて本題に移る。 「部員が五名を下回る部活は、同好会へと格下げする案、賛成の方は挙手を」 「おい、待たんかい」  末席に座る及川がすかさず声をあげる。副会長からかなり離れているので、マイクを通しての抗議だった。 「何でしょうか、都市伝説研究部、及川宗一郎くん」 「何でしょうかじゃないでしょう? え、まじで言ってる?」 「マジもマジですよ。君が何に動揺しているのかわかりませんね」 「だって、お前、ほら、花うさぎ! お土産の花うさぎを、ねえ、ほら! 忖度!」  公安部がいる手前、直接的なことは言えないが、これだけ言えば伝わるだろうギリギリの言葉を及川は必死紡ぐ。  それに副会長は不思議そうに、会長は嬉しそうに答える。 「ええ、おたくの青木君からありがたくいただきましたが、それが?」 「とっても美味しかったです! あと、あのうさぎの形が可愛くて、ちょっと食べるのがかわいそうだなって思っちゃいました。あ、少し調べたんですけど、あれって福岡のお菓子なんですね! 及川君の実家って福岡なんですか?」 「それが……だと……、貴様、あれを受け取っておいて、なおこの非道を行うのか……」  動揺のあまり、会長の質問に答える余裕がない及川。無視された会長は悲しそうな顔をする。 「何ですか、たかが菓子折りごときで……確かに、今回の議題は、君たちには少し都合が悪いのかもしれませんが、それで恩寵を受けられるとでも?」  それを聞いて、及川は固まる。最初はすっとぼけているだけかとも思ったが、副会長の本気で呆れた顔を見るに、もしやと嫌な予感がよぎる。 「えっと、あの……ほら、箱は? お菓子のさ、箱……というか……底……」 「箱? 普通に捨てましたけど?」 「おっふ……」  ショックで変な声がでる及川。  そう、青木は、とくに何の説明もなく、ただ菓子箱を渡したのである。これでは気がつくはずもない。  しかし、青木のこの愚行にも情状酌量の余地はあった。なんというか、仕方なかったのである。  彼が菓子箱を届けに行った時、生徒会室にはちょうど公安部の部長がいたのだ。流石にマッポの前で袖の下は見せられない。  出直そうかとも思ったが、生徒会長がにこにこで「そのお菓子どうしたんですか」なんて聞いてきたものだから、青木もまたにこにこで「お土産ですー」とだけ言って、渡すほかなかったのだ。  とにかく、唯一にして最大の頼みの綱がゴミ箱の中である。希望は潰えたといっていい。  だがしかし、ここで諦めるわけにはいかない。  及川は思って拳を握る。  圧倒的不利、勝率はコンマ一桁あるかどうか、されど負けられない、負けるわけにはいかない舌戦を繰り広げなくてはならない!  決意して、及川は声を上げる。 「今回の議題そのものに異議がある!」 「聞く耳もちませ……」 「異議ですか?」 「会長……聞かなくて良いって……」  無視しようとした副会長だが、会長が聞いちゃったので聞くしかない。 「今回の議題は、明らかに我々、都市伝説研究部を狙ったものである! この様な、露骨に弱者を排斥せんとするやり方はいかがなものか!」 「ゆう君、そうなの?」 「あいつが勝手に言ってるだけだよ、あと学校でゆう君はやめてって言ってるだろ?」  会長の問いに、ちょっとプライベートが出てしまった副会長である。  一つ咳をして、居ずまいをただし、及川に向き直った。 「それは、被害妄想というものですよ、及川君。しかしですね、仮に君たちの言う通りだったとして、何か問題がありますか?」 「なんだとう?」  副会長の暴言に怒りをしめす及川。それを気にする様子もなく副会長は続ける。 「ええ、確かに、弱者だからと淘汰していくあり方は間違っているでしょう。だけど、君たち都市伝説研究部は、果たして、ただの弱者でしょうか?」 「え……もしかして強者?」 「違います。君たちは、弱者である以前に害なのですよ」 「酷いこと言っちゃダメだよゆう君」 「姉さんはちょっとだまってて」 「俺たちの何が害だというのか!」  遺憾の意を示す及川であるが、この場にいる面々(会長を除く)は、「え、こいつ自覚ねえのか」という顔をする。 「まずは、入学式でしていた一年生に対する悪質な勧誘です。他の部活が正々堂々、懸命に勧誘を行う中、あなた方は何やら怪しげな道具を持って、学校を練り歩いていましたね」 「ちょっと何言ってんの分かんないっすね」 「こう、何か、鎖の先に水晶がついた感じの奴のことですよ! あれを揺らしてスピリチュアルな勧誘をやっていたでしょうが!」  ペンデュラムのことである。主にダウジング等に使う振り子の一種であるが、都市伝説研究部はこれを催眠の道具として使っていた。成功率は低いが、頭空っぽの奴にかければ、割と上手くいったりする。畑野とか。  が、勿論それを認めるわけがない。 「そういうの信じてんの……? 別に、悪いとは言わんが、それを根拠に疑いをかけるのは勘弁してほしいわ」 「お前だけには言われたくねえよっ!」  口調が荒む副会長。ここまで冷静に徹してきたが、煽り耐性は皆無なのである。  会長含め、この場にいる部長たちは、今回は結構、長いこと保ったなと感心している。 「でも、そういうちゃんと証拠も示せないもので、人を悪く言うのはよくないよ」 「ぐ……」  そう、会長がたしなめ副会長は言葉につまる。もうある程度お察しであるとは思うが、この会長と副会長、双子の姉弟である。 「勝訴」  言って、拳を突き上げる及川。 「やかましい! お前らを追及する要素は他にもあるのだからな! そう、お前ら、妙な噂を流してるだろう!」  もう完全に素の口調で、副会長はがなり立てる。  妙な噂とは、七不思議増やしてこプロジェクトのことである。 「記憶にありません」 「あれ! 例えば、トイレの太郎君だ! 男子便所に現れる花子さんの染色体XYバージョン! なんで今更そんなクソ懐かしいのを……いや、そんなことはどうでも良い。これを妙にリアリティのあるエピソードと共に流しやがったな! お前のせいで、柔道部主将の剛田君は、一人でトイレに行けなくなったのだぞ!」  涙目で小さく震える剛田君、隣に座る図書委員長が「大丈夫、大丈夫だよ」とその背中をさすってあげている。 「容疑を否認します」 「するな! 他には、あれだ! 増える階段の噂だ! 自身の守護霊が弱っているときに、その階段を上ると、何故か段数が一段増えていて、それを踏み外すと地獄に落とされるとかいうやつ! それも、どこか一ヶ所だけならまだ良いものを、学校中のありとあらゆる階段に同様の噂を流しやがったな! お前のせいで剛田君は、一人で階段をのぼれなくなったのだぞ!」  頭を抱えてむせび泣く剛田君、図書委員長が「怖くない、怖くないよ」とその頭を撫でてあげている。 「せめて、普段使わないような非常階段とかにしとけよ!」 「非常階段だと、恐怖感薄れてつまらんだろうが」 「つまる、つまらぬの話ではない! というか、今、貴様認めたな⁉ 今の発言は自白と考えてよいな⁉」 「うんこうんこ」 「ごまかすにもやり方というものがあるだろうが!」  そろそろ血管が切れそうな勢いで怒鳴り倒す副会長である。周りの人間は、及川なんかの相手をしなければならない彼に同情する。 「でも実際、俺たちが犯人と断定できる証拠は誰もつかめてないんだろう?」 「どうなのでしょうか?」  及川の言葉を受け、会長が近くの二人に問いかける。 「捜査は進めているけれど、残念ながら決定的なものはまだないね」  と、公安部部長。 「いや、僕らの調査もかいくぐるんですからね。悔しい反面、感心してますよ。まあ、別に不確定な情報のままぶっ放しても良いのですが、それをやると公安の連中がうるさいのでね」  と、報道部部長。 「ではまだ、及川君たちが悪いとは決めつけられませんね!」 「ぐう……」  どこか嬉しそうな会長の言葉に、副会長は押し黙る。 「アイム ウィナー」 「黙れ! そうだ! 貴様らが大量に発行してる部誌、あの迷惑こそ貴様らの悪性の証拠にほかならない!」 「あれは、自費で出版してるだろうが、文句を言われる筋合いはないぞ」 「普通に紙が足りなくなるんだよ!」  これ、インク代と紙代ね、と金だけ渡されても、それで紙とインクを調達しに行くのは誰であろう生徒会役員共である。普通にしんどい。ならば最初から大量に買いためておけば良いとも思うが、突然「今回は部誌をだしません」と言い出さぬとも限らない。というか、出すなと言っているのが他でもない副会長だ。 「それは、俺の知ったことではないな」 「我々の労力も慮れと言っているのだ! 大体、あんな誰も読まないようなクソを発行して、普通に資源の無駄だろうが考えろ!」 「クソとか言っちゃダメだよ。それに、私はいっつも読んでるもん」  副会長の暴言に何故か会長が文句を言う。不満げな会長の顔を見て副会長はもう一つ苦情を思い出す。 「あと貴様ら、この前の部誌に『カシマレイコ』を掲載しただろう!」  カシマレイコ、いわゆるこの話を知った一週間後に……的な怪談である。一応ここで詳細を述べるのは控えておく。 「あれを読んで、姉さん、一週間ずっと怖がってたんだからな! トイレも一人で行けなくなって、何回夜中に起こされたことか!」 「ちょっ、ゆう君⁉ なんで言っちゃうの!? 誰にも言わないでって言ったのに!」 「それはごめん」  すごくプライベートなクレームであった。思わぬ流れ弾を受けた会長は涙目だ。  副会長も、これ以上のいちゃもんは思いつかなかったらしく、ここで今回の論争はひとまず終結する。 「まあなんにせよ、お前は俺たちが害である事を証明できなかったわけだ」  勝ち誇る及川に、皆(会長除く)は「えぇ……」って思う。 「くそう……!」  負けを認める副会長に、皆(会長除く)は「えぇ……」って思う。  とはいえ、おとなしく引き下がる副会長ではない。 「くっ……だが、今回の議題は撤回しないがな!」 「なんだとう⁉」  そう、勝ち負けや正当性はさておいて、なんやかんや論争では優位っぽい感じだった及川だが、結局ここを突かれてはどうにもならない。何とか、話をなあなあにしようとしていたが、副会長を怒らせすぎたらしい。「先生に言いつけてやる!」的な使い方をしてきた。 「まて、おい、それはおかしいだろうが!」 「おかしなもんか! はーい、では多数決をとりまーすっ!」 「待て待て、それは横暴だ! 不公平だ! 部員が五人に満たない部活なんて俺たちだけなのに!」 「そうなんですか?」  苦し紛れの及川の叫び。それに会長が反応した。副会長はしまったという顔をする。及川はここぞとばかりに、会長に訴える。 「そうなんだ! 俺たちは今、部員が三人しかいない! 熱意をもって入部してくれた一年のためにも、部室を守ってやりたい! 部活という地位を守ってやりたいんだ!」 「なるほど! では、今回の議題はなかったことにしましょう」 「姉さん⁉」 「それでよいという方は挙手をお願いします」  長一同は「会長がそういうなら……」と、わらわらと手を挙げる。さすがは、その圧倒的純粋さと優しさで生徒会長に当選した女。あらゆる悪意を清める絶対の善性、人望が違う。  かくて、最後は凄まじいスピード感でもって総部会は幕を閉じた。時間の無駄そのものであったが、皆、いつも通り、第三者でいる分には面白いものが見れたので良しとした。      * * *  夕暮れの朱色に染まる廊下を畑野は歩く。  無事、あの議題を撤廃できた知り、畑野も一応安堵した。「自由の勝利だ!」と叫ぶ部長にも、最初の方こそおめでとうと拍手を送っていたが、いつまでも興奮が冷めずわめきたてるので、いい加減うっとうしくなって出てきた。そうして今、特に行くあてもなく一人、校舎内をさまよっているのである。 「あ、畑野さん!」  突然後ろから声がかかった。この学校で、自分に声をかける人など部長か副部長ぐらいである。しかし、聞こえてきた声は女声だ。「え、なにこれ、幻聴? 幽霊? 妖?」 そんな考えが頭をよぎりつつ、おそるおそる振り返る。 「え……会長?」  果たして、そこにいたのは、生徒会長の椚座栞であった。畑野と会長は面識がある。  入学したばかりのころ、先輩と新入生の顔合わせ会のようなものがあった。その際、先輩と二人一組になって学校を案内してもらうという、畑野にとっては地獄でしかないイベントが発生した。当たり前のように誰にも話しかけられず死んでいた畑野に「一緒にまわろうよ」と声をかけてくれたのが椚座会長であったのだ。  そんな優しさに触れたものだから、畑野の生徒会長に対する好感度は極めて高い。 「え、えと、な、なんでしょうか?」  まあ、好感度が高いからと言って、スラスラ会話できるわけではない。むしろ、気分を害することがないようにと、一層会話に臆病になる。 「えーと、用というほどのことじゃないんだけどね……畑野さんってさ、都市伝説研究部だよね?」 「え、まあ、一応、そです」  なんでハッキリ愛想よく「そうです!」と言えないのかこのチキンめ、と畑野は心で己を毒づく。しかし、当の生徒会長に気分を悪くした様子はない。 「じゃ、じゃあさ……及川君ってさ、私のこと、何か話したりする……?」 「部長が、生徒会長のことを……ですか?」  思わぬ質問に、畑野は首をかしげた。その様子をみて、会長は慌てたよう言葉をつづける。 「い、いやっ、そのっ、私っていうか私たち? そう、私たち生徒会のことどんな風に思ってるのかなあ……なんて」  あの生徒会長でも慌てたりするんだ……などと妙な親近感を覚えながら、会長の質問を咀嚼する。なぜ、生徒会があんな部長のことを気にするのかと疑問ではあるが、聞かれたからには正直に答える。 「そうですね、羽虫の戯言なんで気にする必要もないと思いますが、倒すべき敵だ、みたいなことをいつも言ってますね」 「ええっ、ど、どうして⁉」  畑野が答えたとたん、会長が激しく動揺した。涙目である。いつの間にか普通に会話できるようになっている畑野だが、会長の意外過ぎる反応に驚き、それに気がつかない。 「わ、私、なにか癇に障ることしちゃったのかな?」 「い、いや、分かんないですけど、でも別にあんなのの評価なんて気にしなくていいですよ」 「そんなことないよ!」  会長は突然大きな声を出して「あ、ご、ごめん」と縮こまった。そして、恥ずかしそうにもじもじと指を絡める。  ここで、畑野はあれ? と思う。  会長、顔赤くね? これ、夕日のせいじゃないんじゃね? と思う。  なにか、今の会話で、会長が照れる要素があったか考える。何の話をしていたか思い起こす。そして、思い至る。    ……え、部長の話……それで、会長が顔を赤く……え? は? 「はぁああああっっ⁉」  荒々しい音を立てて階段を駆け上がる。そして、蹴破るようにして部室の扉を開く。 「おい、あんま乱暴にすんな。それ古いんだから……」 「貴様! 生徒会長に何をした!? 呪いか祟りか加持祈祷かっ⁉」  畑野は及川に詰め寄ると、その胸倉を掴んで喚きたてる。 「加持祈祷はおかしいだろう」 「畑野ちゃん、全然話が見えてこないから、取りあえず落ち着いて」  青木に引き離され、どうどうと宥められる。べっこう飴をなめて、少し落ち着いた畑野はここに至るいきさつを話し始めた。  畑野が全てを話し終える。青木と及川は顔を見合わせ、ため息をつく。 「お前はやはり馬鹿なやつだよ」 「なんですと!」 「畑野ちゃん、落ち着いて考えてごらん」  青木は畑野の目を見ながら、諭すように言う。 「生徒会長はどんな人かな?」 「顔がよくて、性格もよくて、人望もある人類の到達点」 「じゃあ、うちの部長は?」 「顔は比較的良いけど、それでは到底補いきれない残念な性格と人望の粗大ごみ」 「うん、そうだよね」 「おい、ふざけんな」 「じゃあさ、そんな生徒会長がこんな部長を好くなんてことあると思う?」 「天地がひっくり返っても有り得ない……すみません部長、勘違いでした」 「お前らのこと嫌いになりそうだ」  無事、誤解を解くことができた。これにはみんなにっこりである。  そして、朗らかな雰囲気の中、いつも通りの仲良さげな会話が始まる。 「畑野、お前が感情に流されると碌なことが起きない。それを自覚しろ」 「うん、大体そういうときって、畑野ちゃんが間違ってるよね」 「もうお前は、金輪際、自分という存在に自信を持つな」 「……あ、これ、パワハラですね? 生徒会に訴えてやる!」  そう言って、脱兎のごとく畑野は駆け出す。  さして広い部室ではない。大丈夫、いける。あと少し――――! 「青木っ!」 「了解!」  だが、一歩及ばなかった。青木は、瞬時に畑野に迫り、扉の目前で捕える。  そして、畑野のバックから縄を取り出すと、彼女を後ろ手にしばって、部長の前に突き出した。 「……勢いで捕まえましたけど、今回は俺らの方が悪くないですか?」 「だな、すまん、言い過ぎた。帰りアイス奢るから許せ」 「許しましょう」  そんな、ゆかいな都市伝説研究部である。  これからどうぞよろしくである。
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