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「…逆によかったです、何事もなく見つかって。正直、僕なんかじゃ見つけることさえできなかったかと…」
僕がそう言うと、ソンジュさんは柔らかく目を細めて、笑った。
「…はは…ご理解いただき、感謝します。痛み入ります…――あぁあと、ちなみに俺が、ユンファさんの荷物をすべて捨てろ、と言った件に関しましては……」
「…ええ」
ソンジュさんは僕の目を、至って真剣にまっすぐ、何も気後れのないいっそ無垢な目で見据えてくる。
「あれに関しては…――シンプルに、もう必要ないと判断いたしました。」
「……、……」
いや、…おい。――ソンジュさんはあまりにも純粋な子供の目をして僕にこう、かなり穏やかに語りかけてくる。
「…だって俺、言ったじゃないですか? 衣類などの日用品は、すべてこちらで新品をご用意しております、貴重品のみで、と。…いや、わざわざ貴方がボロボロの服やら、使い古した安い歯ブラシやらを使われる必要なんかありません。」
「…………」
にっこりと、これに関してはソンジュさん、完全に自分が良いことをしたという感覚でしかなさそうである。
「それに…俺が思うに、高潔なユンファさんには、そういったものは似つかわしくありませんから。――あとあの変態オヤジのガマ油ががついていそうで、個人的にも気味が悪い。…別に捨てたって何ら問題はないかと。むしろ、ちょうどいいくらいではないですか。」
「何がですか…」
何が、ちょうどいいだと?
僕は眉をヒクヒクさせつつ、ソンジュさんの言い分を(一応は)聞くつもりである。――しかしソンジュさん、あまりにも悪びれた様子なく、にっこり。
「――過去の精算ということで。まあまあ、前向きにいきましょうよ、ユンファさん。ね?」
「……、……」
いや、やっぱり、怒ろうかな。
それは持ち主である僕が判断することだ。捨てるも取っておくも、僕にだけそれを判断し、決める権利があるはずなんだ。それに前向きにって、勝手に捨てた人が言うべきセリフじゃないだろ、どう考えても。――一回怒られないとソンジュさんは、多分この価値観を改める機会を一生失いそうな人である(彼、あまりにも自分のあの行動への疑心がない)。
ということで、僕は自分なりにキリッとしたつもりでソンジュさんを見据える。
「ソンジュさ…」
「あ…あと、スマートフォンに関してのご説明もいたしますね。」
「……、ぇ、ええ」
しれっと軽やかに話を遮られた。
言い出そうとした僕を、巧妙にかわされたような気もするのだが、それに関しても聞いておきたい僕は、結局ソンジュさんのそれを呑んで頷いた。
すると彼、やっぱり…悪びれず、にこやかに。
「…ユンファさんがもともと使ってらしたスマートフォンに関しましては、初期化の上で…――廃棄いたしました。」
「……は゛…?」
廃棄。――スマホ、僕のスマホを、廃棄。
つまり、勝手に捨てた、と――おい、初期化より悪いことになってるじゃないか。
ソンジュさんは、これではわかりませんでしたか、仕方ないなぁという感じで、…甘く微笑み。
「ふふ…ですから、ユンファさんのスマホは、初期化をした上で。廃棄いたしました。」
「……、…、…」
二回頭をぶん殴られたようなショックである。
おい。おい、おい、おいおいおい――は…?
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