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次に目覚めたときは、ソファーの上だった。先ほどまで出来事は夢だったのかと思ったが、私の上には毛布が掛けられ、床には凪冴が無造作に寝転がっていた。毛布などは全くなく、このままではカゼをひいてしまう。
私はぬくぬくとした毛布を身に着けたまま、ゆっくりと体を起こした。
「凪冴」
声をかけるが届かない。
「凪冴、凪冴」
するとようやく凪冴の体がもぞもぞと動き出した。
「凪冴、カゼひいちゃうよ」
凪冴の瞼がゆっくりと開き、私をとらえた。
「そっち行っていい?」
「……いいよ」
凪冴は起き上がると、私のすぐ隣に座った。
「おいで」
凪冴が両腕を広げている。どういう意味だろうか。ハグ?よくわからず首をかしげる。
「俺の前。寒いから早く」
凪冴の前側に腰掛けると、彼は二人の背中からすっぽりと毛布で包み込んでくれた。ほぼ同時に、凪冴も両腕で私をぎゅっと包み込んでくれる。
「寒くない?」
「寒くないよ。凪冴は?」
私より凪冴が心配だった。側に寄ると彼の体は若干だが冷気を放っており、私にまでひんやりが伝わってきた。
「もう大丈夫。今はあったかい」
その言葉で妙に満たされた気持ちになって、しばらくじっとしていた。
「部屋、決まったんだね」
「……うん」
「おめでとう」
おめでとう、の声がはからずもかすれてしまう。
「いつ出て行くの」
「日にちは決まってないけど来月には出て行くよ」
「……うん、私がそう言ったもんね」
「……うん」
二人の会話はどこかぎこちなく、ぽつり、ぽつり、と、言葉が宙を浮かんでふらふらとさ迷っているようだった。そうしてしばらく漂ったまま行き場を失う。
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