◯◯って呼ばないで

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   *  次に目覚めたときは、ソファーの上だった。先ほどまで出来事は夢だったのかと思ったが、私の上には毛布が掛けられ、床には凪冴が無造作に寝転がっていた。毛布などは全くなく、このままではカゼをひいてしまう。  私はぬくぬくとした毛布を身に着けたまま、ゆっくりと体を起こした。 「凪冴」  声をかけるが届かない。 「凪冴、凪冴」  するとようやく凪冴の体がもぞもぞと動き出した。 「凪冴、カゼひいちゃうよ」  凪冴の瞼がゆっくりと開き、私をとらえた。 「そっち行っていい?」 「……いいよ」  凪冴は起き上がると、私のすぐ隣に座った。 「おいで」  凪冴が両腕を広げている。どういう意味だろうか。ハグ?よくわからず首をかしげる。 「俺の前。寒いから早く」  凪冴の前側に腰掛けると、彼は二人の背中からすっぽりと毛布で包み込んでくれた。ほぼ同時に、凪冴も両腕で私をぎゅっと包み込んでくれる。 「寒くない?」 「寒くないよ。凪冴は?」  私より凪冴が心配だった。側に寄ると彼の体は若干だが冷気を放っており、私にまでひんやりが伝わってきた。 「もう大丈夫。今はあったかい」  その言葉で妙に満たされた気持ちになって、しばらくじっとしていた。 「部屋、決まったんだね」 「……うん」 「おめでとう」  おめでとう、の声がはからずもかすれてしまう。 「いつ出て行くの」 「日にちは決まってないけど来月には出て行くよ」 「……うん、私がそう言ったもんね」 「……うん」  二人の会話はどこかぎこちなく、ぽつり、ぽつり、と、言葉が宙を浮かんでふらふらとさ迷っているようだった。そうしてしばらく漂ったまま行き場を失う。
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