予期せぬ侵入者

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予期せぬ侵入者

   *  取っ手部分の上下に鍵を差し込み、ロックを解除すると滑り込むように部屋の中へと入った。  玄関にはサンダルが一つ。もちろん私のものだ。他の靴は全て靴箱にしまってある。玄関がごちゃごちゃするのが嫌いだった。  家の中に入る前、もしくは出る前に余計なストレスを感じたくはない。ごちゃごちゃするのを気にするくせに、きちんと揃ってないのは平気だった。とりあえず端っこにだいたい並んで居座ってくれていればいい。  明かりをつけキッチンの前を通り過ぎて、奥の部屋のドアを開ける。部屋の明かりはまだつけていないが、荷物をバサッと投げ出し、ぺたんとフローリングに座り込んだ。  久しぶりの飲み会で疲れ果てていた。このままフローリングの心地よい冷たさに身を委ねたい衝動に駆られるが、コンタクトをつけたままなことを思い出す。よっぽど体調が悪いならまだしも、コンタクトを取り外す元気くらいは残っていたので、ゆったりと立ち上がり定位置にあるリモコンで部屋の電気をつける。  そのときだった。なぜだか妙な違和感を覚えた。私の部屋であって私の部屋ではない、いつも決まった場所にあるコップの位置がほんの少しずれたような感覚。  ふと見ると、ソファーに人影を感じた。ぞっと背筋が凍りつくのがわかる。私の家に私以外の何者かがいる。そこには恐怖しかなく、思わず音もなく後ずさりした。  身を固くして、必死に考える。確かに鍵を開けて入ったのに、一体どこから侵入したというのだろうか。まさか私のストーカー?何で?鍵はどうしたの?合鍵ってそんな簡単に作れるもの?常に私が持っているのに。  怖かったが確認しないことには警察も呼べない。確認した時点で終わる可能性もあるが、声を押し殺してソファーに近づき、ぎりぎりその人影が確認できるところまですり足をした。いつでも逃げ出す準備はできている。心の準備であって、実際逃げ切れる保証はないが。  恐る恐るソファーの上を覗き込むと、そこに横たわっているのはどうやら男性。寝ているようだった。かすかな寝息が聞こえる。その瞬間寝返りをうった。すぐにしゃがみ込んで隠れるが、幸い目覚めたわけではなさそうだった。もう一度立ち上がりゆっくりと顔を確認した。  まさか、この男……自分の目を疑い何度も瞬きした。   この男は……義弟(おとうと)だった。正確には、私、田主丸(たぬしまる)アンの元義弟の前川(まえかわ)凪冴(なぎさ)
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