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1学期
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芹奈が勤務している「桜坂ゼミナール」は、埼玉県の東部地区を中心に展開している学習塾だ。
生徒たちからは「桜ゼミ」と略されることが多い。
大学受験を目指す学生が集まる場所は予備校と言ったほうがいいのかもしれないが、芹奈をはじめ、桜ゼミのことを塾と呼ぶ学生は多い。
その理由はいろいろ考えられるが、埼玉県は塾文化が広く根付いている地域であるということが一番の理由だろう。
埼玉県では、高校受験に向けて学習塾に通う人が多く、塾という響きが保護者、生徒ともに浸透している。
かくいう桜ゼミも、最も力を入れているのは高校受験のほうで、大学受験部はまだまだ歴史が浅い。
芹奈は中学生のときに桜ゼミに通っていて、その甲斐あってか、第一志望の高校に入学することができた。
しかし、高校に入ってからの成績は鳴かず飛ばずという感じで、高二の夏までは大学受験のことなんてほとんど考えていなかった。
そんな芹奈のもとに、桜ゼミが予備校部門を開講するという知らせが届いたのだ。
塾に通うことそのものに抵抗がなかった芹奈は、その後開かれた説明会に参加し、高校二年生の三月から、第一期生として桜ゼミに再び入塾することになった。
そのときからチューター制度というものがあって、芹奈は当時担当だったチューターに非常に世話になった。
勉強面で救われたのは言うまでもないが、精神面での支えも大きかったと、芹奈はあとから振り返っている。
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