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思うようにいかないことが多かった大学受験だったけれど、どんなときでも話を聞いてくれる人がいた。
それは芹奈にとって何にも代えがたいものだった。
そんな経験を経て、芹奈はチューターとして桜ゼミで働くことになったのである。
高校受験部に比べてまだまだ規模は大きくないが、こういう塾を必要とする子どもはたくさんいるはずだと、芹奈は日々奮闘している。
「水津」
「は、はいっ」
この声で呼ばれると、否が応でも背筋が伸びる。
誰にとってもそういう人っていると思うが、何年経っても、いつ呼ばれても同じ反応になるのだ。
「今年のチームはどんな感じだ?」
こう尋ねてきたのは、英語担当の八坂譲治。
桜ゼミの看板講師と言える人物で、この人は複数の校舎を転々として授業を行う、いわゆる予備校の先生だ。
芹奈は学生時代、この人に英語の基礎を徹底的に叩き込まれた。
ジョージという名前を聞いたときはハーフの人なのかと思ったが、見た目もしゃべり方もバリバリの日本人である。
昨日ここで一学期最初の授業があって、芹奈は少しだけ廊下から譲治の授業を眺めた。
懐かしい感覚もあったけれど、新しい一年が本当に始まったんだと、身が引き締まる思いになった。
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