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「始めていいですか?」
「どうぞ」
芹奈は自分の腕時計で時間を確認し、開始の合図を出した。
教室内に時計はあるけれど、のどかはちゃんと気にしているだろうか。
それからずっと、芹奈はひたすらのどかの様子を見続けた。
視線はどこを向いているのか、文章を読んでいる間に手はどう動くのか、設問や選択肢に対するアプローチはどうか、注目すべき点はいくつもある。
現代文の講師を務めているのは海老原歩実という女性で、芹奈は学生時代にお世話になったわけじゃないけれど、数少ない女性講師ということもあってか、それなりに仲良くなっている。
普段は授業中の生徒たちの様子を尋ねることが多いのだが、海老原がどんなふうに指導をしているのかも聞いている。
だからここでも、芹奈が独自に教科指導を行うのではなく、あくまでも海老原の教えをちゃんと生かせているのかをチェックするのだ。
ただ、この取り組みにおける芹奈の真の狙いは別にある。
のどかはきっと、先生に言われた通りに解き進めるだろう。
だから、芹奈が何か手ほどきをすることはないと予想される。
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