月夜のふたり

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#1 豊吉「ああ、今日の満月はきれいじゃのぅ。ちょっと月見散歩でもするか」 うめ「よっこいしょっと」 豊吉「やっぱり月見散歩は婆さん背負って、って、おいおい。重いわ。降りんかい」 うめ「ええやろ。ラブラブなんやから」  豊吉「あかんて。腰やられるわ。ワシら共に百歳なんやで」 うめ「ふたり合わせて・・・まぁ、そんくらいやな」 豊吉「お前、足し算苦手やったな」 うめ「二次元一次方程式は得意なんやけどな」 豊吉「なんやそれ。っていうか下りろ言うてるやろ」 うめ「気づかれましたか」 豊吉「これ気づかんようになったらワシもお迎え時じゃ」 うめ「というか、私らもう死んでるんちゃうやろか。最近そう思うんよ」 豊吉「なに言うか。生きてるから満月も見れるんやないか」 うめ「あの世にも満月あるかもしれませんよ」 豊吉「満月はあるかもしれへんけど、腰は痛くはならんやろ、って、早う下りや」 うめ「気づかれちゃいましたか」 豊吉「ずっと気づいとったわ」 うめ「こういうのはどうでっしゃろ」 豊吉「なんや」 うめ「私がちょっと浮いて背負われる言うのは」 豊吉「お前、いつからそんな特技身につけたん」 うめ「デイサービスでな、習うてん」 豊吉「あそこそんなことも教えてくれるんか」 うめ「百歳からの性生活というのもやりましたがな」 豊吉「そんでお前最近、積極的なんか」 うめ「気づいとりました?」 豊吉「そら気づくわ。そやったら、ちょっと浮いてくれや。腰痛いねん」 うめ「ほな、やりましょか」 豊吉「頼むわ」 うめ「ジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ」 豊吉「おいおい、それなんやの」 うめ「浮く呪文です」 豊吉「違うやろ。落語やろ」 うめ「気づきましたか」 豊吉「そりゃ気づくわ。アホちゃうで」 うめ「そうですかぁ。アホちゃいましたか。じゃあ第180回の婦人会の結論は間違いやな」 豊吉「なんや結論て」 うめ「あんたはアホや、言う結論になったんですわ。満場一致で」 豊吉「お前らろくな話しとらんな」 うめ「百歳からの性生活についてもよく話しますで」 豊吉「ほんまにそんなんばっかりやないか、ってお前、ちょっと浮く話どうなった」 うめ「すっかり忘れとりましたわ。こんなこと忘れるなんて、私ももう若くないわ」 豊吉「百歳やからな。ふたり足したら・・・まぁ、そんくらいやなぁ」 うめ「あんた足し算出来へんか」 豊吉「なにを言うんや。ワシは理系やで」 うめ「私はそれ反対ですわ。人殺したかて、犯人を殺すのは間違うとります。過ちを獄中でしっかりと」 豊吉「お前それ、理系やなくて、死刑やろ」 うめ「あんたなんて言うたん?」 豊吉「もうええわ。それよりお前、下りる気ないやろ」 うめ「気づかれちゃいました?」 豊吉「そりゃいくらなんでもワシかて気づくわ。しゃあない。このまま行くか」 うめ「らっきぃ」
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