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#2
うめ「ほんまに月、きれいなぉ」
豊吉「新婚旅行思い出すな」
うめ「あんたが熱海の温泉で女湯覗いたことですか」
豊吉「ちゃうがな。月夜の熱海海岸歩いたやろ。それにしてもお前そんなしょうもないことよう覚えとるな」
うめ「しょうもないことしか覚えとらん」
豊吉「そやな。人生はしょうもないことばっかりや。そんなかに幸せってもんがあるんやろな」
うめ「あんたも百年一回はええこと言いはりますな」
豊吉「そやったらもうこんでおしまいや」
うめ「あんたの背中、あったかいわ」
豊吉「冷たかったら死体やろ。生きてるってことや」
うめ「ありがたいことやなぁ」
豊吉「み〜んな死んでしもたからなぁ」
うめ「あんたもいつか冷とうなるんやな」
豊吉「そやな。なるな」
うめ「私も、なる」
豊吉「冷たいお前はきらいや。ワシより先に冷とうなったらあかんで」
うめ「そんなん、神さまが決めることや」
豊吉「そやったら神さまに言うとくわ。ワシが先やって」
うめ「あんた・・・やさしいなぁ」
豊吉「やさしいんやなくて、寂しのがいやなだけや」
うめ「・・・私かて、同じです」
豊吉「・・・そうか」
うめ「腰、痛いやろ。もう下りるわ」
豊吉「まだ下りんでええ」
うめ「そやかて」
豊吉「もう少し、もう少しだけ、お前の温もり、背中に感じていたい」
うめ「百歳からの性生活が効とるみたいやな」
豊吉「そんなんちゃうわ」
うめ「大丈夫、あんたより先には冷たくはなりませんから」
豊吉「約束やで」
うめ「はいはい」
豊吉「あんな、ワシお前に言わないけんことあるんや」
うめ「なんですか。浮気でもしとるんか」
豊吉「ちゃうわ。あんなぁ・・・」
うめ「あなた、見て。季節はずれのホタル!」
豊吉「え、どこ?」
うめ「ほら、いっぱいおるやないの」
豊吉「ワシには見えん」
うめ「すごい数、きれいなぁ。私、ホタルに囲まれてるわ。ホタルが月に向かってずうっと伸びてる。ホタルさん私をどこに連れていくの」
豊吉「ばあさん・・・・・ばあさん?返事せんか・・・頼むから、返事してくれ・・・・・ばあさん・・・・・・・・・・・・。ワシひとりはいやや・・・ひとりで寝るのはいやや・・・言わないけんことも聞かんでお前・・・ホタル好きやったもんなぁ」
うめ「好きやで」
豊吉「うわっ!生きとったんか」
うめ「気持ち良くてつい寝てしもたわ」
豊吉「驚かさんでや」
うめ「すんまへんな。ホタルの夢見ておったわ。それより言わないけんことってなんや」
豊吉「覚えとったか。もうええ」
うめ「いいことないわ。生きてる間に言っとかんと後悔するで」
豊吉「・・・たいしたことやない」
うめ「男らしくない。言いなはれ」
豊吉「うん、あんな・・・ワシ・・・地球人やないんよ」
うめ「宇宙人やろ。知っとったで」
豊吉「ほんまに?」
うめ「はい、ずっと前から知っとった」
豊吉「なんで言わんかったや」
うめ「それはな、私も宇宙人やから」
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