2人が本棚に入れています
本棚に追加
マグカップ片手にデスクに戻ると、一人目の発表者の子がぐだぐだと提出したレジュメの内容をそのまま読み上げている。
後ろで犬が吠えていて、「モカちゃん、うるさいよ!」と叱る女の人の声がした。
彼女は実家住みの子で、入ってきたのは、たぶん母親の声だ。
その子は恥ずかしそうに「すみません」と苦笑した。
先生は、オンライン講義が増えてからこんなことは日常茶飯事で「わんちゃん今日も元気ね~」と和やかにいなした。
前期の講義でも、同じようなことが何度かあったから、その子の発表のときはいつもこうなるとみんな分かっている。
家族と同居している子たちは、自宅でオンライン授業を受けるのは結構大変そうだ。そういう時は、無理を言って一人暮らしをしてよかったと思う。
その後も、だらだらとした発表が続いた。退屈しのぎにゲームのデイリーミッションでも消化するかとスマホを開くと
――新米とれました
送りました 今日届くよ――
おばあちゃんからのLINEが続いていた。
宅配便の配達予定の通知も来ている。
母の実家は、隣の市で、祖父母は田んぼや畑でいろんな作物を作っている。
予定の配送時間は十四時から十六時の間。
夕飯の買い物は宅配を受け取ってからにしよう。
そうと決まれば、今日の夕飯は新米を美味しくいただける料理にしたい。
ゲームはやめて、チラシアプリで近くのスーパーの今日の特売品を確認する。
最寄りのローカルチェーンのスーパーはこれといったものはない。代わりに、自転車で十分ほどかかるところにある店では、今日は鶏もも肉が安くなっている。
白米の合う料理、鶏もも肉、そこから導き出される答えは――――唐揚げ!
この前、バイト先の洋食屋さんで、シェフの岡さんから作り方も教えてもらったし、その時のメモが家のどこかにある。
授業は、二人目の担当者が発表を始めだした。
この子は、発表が上手い子だ。調べることも考えも参考になる。メモ探しを中断して、ぬるくなったカフェオレを飲みながら、メモを取った。
最初のコメントを投稿しよう!