第二章 夢を乗せ、悩みを乗せ、走る

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 美陽と美陽の兄が乗るゴンドラは少しずつ地面へと近づいてきている。地上についたゴンドラから乗っていた人が飛び降りていく。あと少し、もうちょっと……やっと地上についた。その時にはゴンドラのドアは外れかけていた。 「お兄ちゃん早く!」  美陽はドアを少し押した、熱くて思わず手を引っ込める。 「み、美陽!あぶない!」  兄の声がしたかと思うと、美陽の体は外へと投げ出されていた。ドアは遠くへすっ飛び、美陽は奇跡的に火の燃えていない場所へと転がった。兄が美陽を突き飛ばして外へと出してくれたのだ。そのすぐ後のことだった。観覧車がくずれ、ゴンドラが一斉に地面へと落ち始めた。近くにいた大学生ぐらいの遊園地のスタッフが駆け寄ってきて美陽を起き上がらせ、観覧車から離していく。 「観覧車にはもう誰もいないみたい!早く逃げよう!」  スタッフがさけぶ。 「お兄ちゃんがまだ中に!」  美陽が泣き叫ぶ。 「え?そうなの!?誰か!この子お願い!」  スタッフは美陽を抱き上げると近くにいた別のスタッフへと手渡す。 「この子つれて逃げて!……大丈夫だよ、ボクにまかせて!助けてくる!」  そのまま彼はくずれて激しく燃える火の中へと飛び込んだ。 「お兄ちゃんお兄ちゃん!いやー!」  美陽はおろしてと激しく暴れたが、男性のスタッフが大丈夫、大丈夫だから!と言いながら美陽を抱えて観覧車から離れていく。  あれから兄の姿をみていない。美陽は無事に両親と合流することができた。両親は美陽を強く抱きしめたが、すぐに兄の姿がないことに気がついた。美陽は泣きながら観覧車でのことを話した……  消防車が到着し、全て消火し終わるまでかなりの時間がかかった。亡くなった方やケガをした方は大勢いたみたいだが、美陽の兄は遊園地のどこを探しても見つからなかったらしい。彼の体さえ見つからないのだ。いくら遊園地に連絡しても兄らしき人は見つからないと言われ、兄を救うと言って炎に飛び込んだ遊園地のスタッフにも会えなかった。しかし、遊園地のスタッフは全員無事だったと聞いたのであのスタッフは生きていると思われる。   「行方不明なのは私のお兄ちゃんだけなの。どこかで生きてるって家族みんな思ってるけど、どこにいるの……」  涙をこらえながら美陽がつぶやく。歩美は美陽を抱きしめた。 「きっと生きてるよ。ごめんねつらいこと思い出させちゃって」  歩美は美陽の頭をなでる。美陽はこらえきれずに涙がこぼれてしまった。2人はしばらく静かに過ごした。
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