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「車掌さん、いいバスだね。乗り心地いいよ。シートもふかふか!」
森本が親しげにアビに話しかけてくる。先ほど15分休憩があったため、アビは客が全員乗っているか確認していた。確認が終わり、彼は自分の席に戻るところだった。
「ありがとうございます。このバスはオーナーの宿川が特別に作ったものだと聞いております」
「海の中から走ってきてるんでしょ?すごいな、車掌さんも鳥だし、信じられないことばっかりだよ。おもしろい!このバス、秘密にするにはもったいなくないか?」
森本が不満そうな顔をした。
「オーナーの意思でございます。困った方や夢を持つ方の手助けたいといろいろ考えた結果、夜行バスを運行することにしたそうですよ」
「なぜ夜行バスなんだい?」
森本が興味深々できいてくる。
「悩みというのは止まっていても解決しないと考えたオーナーは、悩める人をバスに乗せ、目的地、帰る場所へ移動するお手伝いをしようと思ったそうです」
アビはオーナーの方をみた。休憩していたオーナーは話してもオッケー!というようにアビに向かって親指をたてた。アビは続きを話し始める。
「少しでも夢を叶える手助けをすること、悩みを解決へと導くことがオーナーの夢。特に悩みというのはあまり人に知られたくないと思う方がほとんど。だから乗せる人は少人数にして、このバスに乗ったことがバレないように秘密にひっそりと夜に走る」
ふーんと森本がうなずく。
「景色がはっきり見える昼より、闇に包まれた夜の方が視界がさえぎられ、自分の悩みや夢に向き合える、と……初めてこのバスで仕事をした時、そう教わりました」
アビは先ほどの窓ガラスに映った自分を思い出しながら言った。
「へぇ、そーなんだ。それでもやっぱり秘密はもったいないなぁ。実はね、私はある遊園地のオーナーなんだが、自分の手がけるものが有名になるのは嬉しいもんだよ」
「オーナー様でしたか。遊園地といえば少し前に火事になったところがあったみたいで」
「そうなんだよ、あれは私の遊園地でね。今建て直しているんだよ。私はその様子を見に行くためにこの夜行バスでこっそり移動中さ」
森本がシーっと人差し指を口にあてる。片目をつぶり静かに笑っている。
「こっそりですか」
「そう、こっそりね。娘が遊園地の責任者をやっているから極秘で建て直し計画の相談したかったのに何度電話してもでないんだ。だから仕方なく娘がいる遊園地へと向かってるわけ」
「何かあったのでしょうか?」
アビが不安そうな顔をした。
「あの年になって反抗期かもしれんな、はっはっは!」
楽しげに話す森本。
「ところで!車掌さんはなぜ鳥の姿なんだ?他はみんな人間の姿をしているのに。何か秘密でも……」
その時だった。バスが激しく上下に揺れる。柿島が申し訳無さそうにオーナーに向かって言った。
「ごめん。タイヤ、パンクしたかも……」
「困ったねぇ、今はこの辺りだから……もうすぐサービスエリアだ!そこに行こう!」
オーナーがインターネットで地図を調べながら言った。
「分かった。予定外だから……アビ、アナウンスお願いできる?」
「分かりました、サービスエリアに到着したらアナウンスいたしますね」
アビは森本に一礼すると、バスの前方に戻っていった。
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