第二章 夢を乗せ、悩みを乗せ、走る

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「んー……もう朝?」 「東京、着いたぁ?」  はしゃぎ疲れてぐっすり眠っていた双子も、泣き疲れていつの間にか眠りにおちていた美陽と歩美も、目をこすりながらアビを見つめる。 「皆様、申し訳ございません。バスの前方タイヤがパンクしてしまい、ただいま静岡のサービスエリアで停車しております。40分ほど停車の予定です。車内から出ても大丈夫ですので、ごゆっくり休憩なさってください」  アビがアナウンスをした。 「フィカぁ今なんじぃ?」 「うーん……朝の4時半だよぉ」  双子は大きく伸びをした。 「ルカ、外行こっか!」 「うん行こう!」  あっという間に元気になった2人はバスを出て行った。 「美陽、あたしお腹空いたから何か食べてくる。一緒に行く?」  歩美が立ち上がって美陽に聞いた。 「ごめん、ちょっと疲れてて。私バスで待ってる。帰ってきたらまたおしゃべりしようね」 「うん!じゃあ行ってくるね」  歩美も外へと出ていく。 「……私も外へ出るか」  森本もバスを降りていく。 「お気をつけて」  アビはバスの外へ出て見送る。 「アビくんもちょっと休憩してきたら?疲れたでしょう」  オーナーが柿島の様子をみながら言った。 「私たちも終わったら休憩するから。先に行っておいで」 「はい、ありがとうございます。ではお先に」  彼は明かりがもれる建物へと歩いていった。靴をはいていない小さな足が冷たいアスファルトの道路をペタペタ鳴らした。 「ふぅ……」  アビは休憩所の裏側にある自動販売機であたたかいお茶を買う。まわりに人はいない。秋の虫の声だけが辺りにひびいている。少し冷たい風がふいた。そわそわと羽根がこすり合う。 「冬毛になるのかな……」  アビは自分の手を見ながらつぶやいた。羽根で覆われた鳥の翼。 「何者なんだろう、僕……」  彼は自分のことが分からない。オーナーと出会う前の記憶がないのだ。アビはお茶を飲みながら今までのことを振り返る……
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