第三章 悪夢と夜明け

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第三章 悪夢と夜明け

「へ?鳥?」  声がして、アビは現実にもどる。男性がこっちを見ていた。紺色のスーツが少しボロボロになっている。 「こんばんは、アビです。人間の言葉は話せます」  アビは挨拶をした。 「こりゃご丁寧にどうも……確かアビって渡り鳥だよね?だったら知ってるかな?人を探しているんだが……この人、どこかで見なかったかい?」  男性は落ち着いた様子だ。彼はスーツの内側のポケットから手帳を取り出し、中に挟んでいた写真をアビにみせる。  黒に近いが、茶色い髪。少しウェーブのかかった前髪。色白で……優しい眼差しでにこやかに笑っている大学生ぐらいの男性だ。 「原田凛月くんっていうんだけど。5月に遊園地の火事、あっただろう。それに巻き込まれたはずなんだが、どこを探してもみつらないらしいんだ」  アビが少し顔をゆがめた……ようにみえた。鳥の表情は分かりにくい。 「あぁ俺はあやしい者ではない。この子のご両親に彼を探してほしいって頼まれた探偵だよ」 「どうもご苦労様です。うーん……」  アビは考え込んだ。 「あー分からないなら大丈夫だよ……あーもう何やってんだ俺。もう4ヶ月も探して、足取りひとつ掴めねぇなんて。とうとうスーツ着た鳥まで見えはじめた。おまけにその鳥と話したし……」 「……」  はぁーと探偵は大きなため息をついた。 「疲れてんだな俺。あ、スーツってことは仕事中か?鳥も人間の世界で働くようになったかー、厳しい自然界だな。それじゃあ俺は行くよ、お互いがんばろうな」  探偵は疲れた様子でとぼとぼ歩いて行った。   「うーん……」  アビはまだ何かを考えている。そして……アビの背が伸びはじめた。鳥の羽根がスッと抜けおちたが、地面につく前に消えてしまう。鳥の顔が人間の顔になる。茶色い髪、色白の肌、少しウェーブがかかった前髪が目を少し隠した……先ほどの写真の男性だ。違うところといえば、前髪の間からのぞく目も、少し痩せこけた顔も口も笑っていないこと。 「やっぱりこの姿だよね。あれは僕なのかな……」  この姿になったのは2回目だった。
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