第三章 悪夢と夜明け

2/8
前へ
/25ページ
次へ
 1回目に人間の姿になったのは、宿川さんと働くための準備をしていた時だった。 「おーそれがアビくんの人間の姿か、若いねー」  宿川さんが人間の姿になった僕をみて言った。 「自分のはずなのに、自分じゃない感じです……鳥の姿のほうが落ち着きます。鳥のままじゃだめですか?」  僕は鳥の姿にもどった。鳥にもどろうと意識するともどることができる。ふしぎな感覚だ。 「いいよ、うん、君は君だ。好きな姿で大丈夫だよ。じゃあスーツと帽子は鳥用に作ってもらうからね」  心があったかくなる。  僕は宿川さんの家で暮らしている。バスの仕事を手伝うことになった。僕の担当は車掌だ。バスの会社は運転手の柿島さんとオーナーの宿川さんが2人で始める予定だったらしい。僕がきたことで、良いサービスが提供できると言っていた。ここにいてもいいって言ってもらえて嬉しかった。   「やっぱり落ち着かない。僕は本当は人間なのか?それとも姿を真似できる変身能力をもったアビなのか?でも前からこの姿には変身できてたし……」  鳥の姿に戻ったアビ。何も思い出せないことが悔しかった。  アビはベンチに置いていたお茶の缶を捨て、軽く羽ばたいて首をふる。 「そろそろバスに戻ろう」  冷たい風がざわざわとアビの羽根を逆立たせる。落ち着かないまま、彼はバスまで歩いていく。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加