第三章 悪夢と夜明け

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 バスはタイヤの交換が終わっていて、オーナーも柿島もいない。休憩に行ったのだろう。バスはしんとしていて、静かに停まっている。まだ誰も帰ってきていないようだ。改めてバスを見る。深い青の車体。下の方は海で、上の方は星空と大きく丸い月が描かれている。とてもステキなバスだとアビはいつも思う。   「おー車掌さん。お疲れ様」  バスを見ていると森本が手をあげながら近づいてきた。 「森本様、ありがとうございます」  森本はアビを見下ろした。 「車掌さん、私はこのバスが気に入ったよ」 「ありがとうございます。オーナーも喜びます」  アビも嬉しかった。 「だからさ、有名にしてあげるよ」 「いえ、秘密にしていただけると……」  アビが困って言った。嬉しい言葉だが、オーナーの想いを無視したくはない。アビ自身もバスは有名になるべきではないと思っていた。すると森本はにっこりと、ほこらしげに言った。 「いやー実はもう有名にする下準備は終わっているんだ。みててくれよ……」  その瞬間  ドーン!ボワッ!  凄まじい音とともに熱い空気を感じた。バスの方から流れてくる……バスが、燃えていた。 「な、何をしたんですか……」 「何って、そこのガソリンスタンドのガソリンをバスにまいて火をつけたんだ。離れたところから火を放ったのさ。だから時間差でバスが燃えたんだよ。ちょうど燃えるところがみえたね」  森本はにこにこしている。 「な、なんで……」  アビは驚いて立ちすくんでいる。 「言っただろ?有名にしてやるって。私の遊園地と同じことをしてあげたんだ」 「ま、まさか遊園地も……あなたが……」 「そうだよ。僕が娘に遊園地のあちこちに火をつけさせたんだ。大きな事故から奇跡の復活!わーすごーい!たくさん注目を集めること間違いなしだ!ただ……」  森本の顔が険しくなった。 「思ったより復旧工事が早く進んでいてね。もう少し時間かけたほうがほら、奇跡の復活!って感じがするだろ?だからもう一度火をつけるように娘に頼もうとしたんだ。でも娘は電話にでなかった……だから私が火をつけにこっそり向かうのさ」  森本はシーッと人差し指を口に当てた。先ほどとは違う、邪悪な笑顔だ…… 「秘密を絶対に守れる人しか乗れない……それはたとえどんな秘密でも……」  アビが震えながら言った。 「あーそういうことか、私は口がかたいよ。遊園地の火事の原因、黙っていてくれよ?」  炎の光が森本の顔を赤く照らす。 「多くの方が亡くなってるかもしれないんだぞ!あなたのせいで!」  突然アビが声を荒げた。森本は驚いた顔をした。 「……なんだよ、せっかく有名にしてやろうと思ったのに。このバスも火事から復旧した奇跡のバスで有名になるんだぞ、客が増えるんだぞ、嬉しくないのか?」  怒りがあふれてくる。 「全然嬉しくない!今すぐ消して!この火を!」  その時、アビは気づいた。確かバスの中には客が1人残っていたはず…。 「美陽さん!」  アビはバスに向かって走り出した。 「おい、ちょっと!死ぬぞ!」  森本があわてて声をかけた。しかし、アビはもうバスの中へ飛び込んでいた。
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