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バスは静かに走っていく。窓の外は深い藍色に包まれていて、時たま銀色の光がキラッと光る。魚のうろこがバスから漏れる光に反射しているのだ。外の景色は何も見えないわけではなく、赤茶色のワカメらしきものがゆらゆらしていることを確認できる。近くのワカメがバスの勢いに驚いてのけぞった。
「ふぅ……」
バスの真ん中辺りの席に座った道野歩美はリュックを抱えて窓の外をぼんやりと眺め、ひと息ついた。すぐそこの景色は慌ただしく後ろへと流れてしまうが、遠くの景色はのんびりとあまり動かない。その遠くの方を見ながら何かを考えている歩美。そして悪い考えを飛ばすかのように首を横にぶんぶんふってはため息をついていた。
バスの前方には双子のスナメリが座っていた。時々クスクスと笑い声をもらしながら楽しそうにおしゃべりをしている。
「初めての陸、楽しみだね。デパート行くでしょー、公園に花を見にいくでしょー」
「あと遊園地にも行くよね。そういえば火事になった遊園地があったよね」
「あーあったね。火事ってどんなのだろう。火って見たことない」
「火は人間の生活には欠かせない、学校で習ったね。使い方間違えると火事になっちゃうみたい」
「ちょっと怖いけど火見てみたいねぇ」
2人は人間になる練習をしながらおしゃべりを続けている。尾びれが縮んだり元に戻ったりしており、頭も人間になったかと思えばイルカに戻ってしまう。なかなか完全な人間には近づかないが2人とも変身することを楽しんでいるようで、お互いの姿をみては失敗した姿にケラケラ笑っている。
「遊園地で火事?」
車内でブランケットを配っていたアビは聞こえた会話に思わず声を出してしまった。
「あ、ブランケットありがとう……そうそう!東京の遊園地だよ!ね、ルカ!」
「うん!5月に起こったんだって!車掌さんも知ってる?」
「いえ……」
アビは首をかしげる。
「遊園地丸ごと大きな火で包まれたんだって!」
「原因までは分からないけど……あ、ねぇルカ!火といえば花火って花も、火でできてるらしくて…」
アビは2人のそばをそっと離れた。遊園地が大きな火で飲み込まれるなんて、そうそう聞く話ではないためか気になってしまった。
「……仕事に集中しなくちゃ」
アビは歩美にもブランケットを配りに向かった。
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