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「アビくんおつかれ。もうすぐ陸にあがるよ」
乗務員用の席にもどると、オーナーがバスの外を指差して言った。
「アナウンスしますね……皆さま、これより陸へとあがります。多少揺れる可能性があるため、お席をお立ちにならないようお願いいたします」
バスがゆっくりと真上に浮かびあがる。そのままバスはタイヤまで海の外に出た。ジャバジャバと水が落ちる。海はバスを持ち上げ、水でスロープを作り、陸へとつなぐ。バスはそのスロープの上を走る。
「わわわすごい!車内の水が減っていくよフィカ!」
「うん、すごい!これが乾いてるってことか!」
双子はきゃーきゃーはしゃいでいる。車内を満たしていた水は完全に消えてしまった。外へと出たみたいだ。しかしどこもぬれていない。
「息、できる」
歩美の驚いた声が聞こえた。
「変身能力をもっていれば海でも陸でも呼吸ができるんだよー!」
「ぼくたちはもとから海の外の空気で呼吸してたから、海の中で呼吸ができるのがふしぎだったよー!」
双子が振り返って歩美に教える。
ジャリ……
バスが陸のかたいコンクリートの上にタイヤが乗る。
「わわ!陸だ陸だ!」
「おお!ついにきた!」
双子は窓に張りついている。
「皆様、お疲れ様でした。ここからは陸を走ります。大阪到着まで今しばらくお待ちください」
バスはそのまま道路へと向かう。月がまぶしい。優しい光が道を照らしている。それに加えて街灯も光をはなっている。まわりには大きな船が海の上でとまっていて、ここは港だと知ることができる。
「ねね、車掌さん。ふしぎなバスだね」
「海が言うことをきくの?」
双子がやってきてアビに質問をする。
「えっと、ぼくも分からないことが多くて…」
アビが困っているとオーナーがそれに気づき、答える。
「あぁ、教えていなかったね。このバスは魔法がかかっているんだ。海の魔女さんが、海でも陸でもうまく走るようにってバスに魔法をかけてくれたのさ。そのおかげで海の外に出たら陸を走れるバスになるんだ」
「そうなの?おもしろい!」
「魔女様すごいや!」
2人は満足そうに自分たちの席へともどっていった。
「海の魔女様って何者なんでしょうか……」
アビはふしぎそうな顔をした。
「うーん……彼女は人間の姿をしているんだ。生物はみんな海で生まれて、一部が進化して人間になった。でも陸に行ったはいいけど、そこでの生活になじめなくて海に戻ってきた人間もいてね。彼女はその子孫って言われているよ」
オーナーが説明をしてくれた。
「ぼくたちはみんな海が故郷なんですね」
なるほど、とアビはうなずいた。
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