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#3
「もう少し、続けてみよう」
名越の言葉に、東田が首をひねる。
「なにを、ですか」
「この展開をだ。すでに#2で【了】でもよかった気もするが、なんだか足りん気もするのだ」
「はぁ。よくわかりませんが、それって例えて言うと・・・ラブホの2時間制ってキリが良さそうにみえて実は2時間半がちょぅどよくて、どうしても30分延長してしまう、みたいな?」
「・・・ノーコメンツ」
東田はバツが悪くなり、意味なく顕微鏡を覗いた。
その時だった、東田が突然、叫んだのは。
「え、ええっ!!」
「どうした、ディーン東田君」
「ディーンはいらない、というより、見てください」
東田が席を立つ。名越は東田の席に移り、顕微鏡を覗く。
「こ、これはもしや!」
「そうです。10年かけても見つけられなかった、不老不死のウィルスです!やったんですよ、私たちはついに発見したんです!」
東田は顔を紅潮させ、目には涙を浮かべていた。
「教授、一刻も早く論文を書いてネイチャーに送りましょう。これはノーベル賞ものです!」
じっと顕微鏡を覗いていた名越が、ゆっくりと顔を上げる。そして、東田を見た。
「ノーベル賞・・・か」
「そうです。私たち科学者の到達点です。間違いなく候補にはあがります。すごい発見ですよ教授、やりましたねぇ!」
しかし、名越の顔に笑みはなかった。
彼は力なく立ち上がると、東田に背中を向ける。
「その発見では、ダメなんだよ」
「え、いまなんて言いました。これは世界的大発見ですよ!」
名越は肩を落とし、顔だけ東田に向ける。
「面白くないじゃん」
固まる、東田。
「お、面白く、ない・・・!?」
「ウケへんて、不老不死のウィルスなんてさぁ。トンデモ賞も無理だろうなぁ」
「トンデ・・・それってもしや、さっきからずっと言っていた、なんちゃら賞のことですか」
名越は、力なく頷く。
「そうだ、なんちゃら賞だ」
「まさか、ノーベル賞より、なんちゃら賞の方が価値があると言うんですか!?」
名越は、眉間に深い皺を寄せ、東田を見つめた。
「いまの私にはね、ノーベル賞は、兵庫県の全日本かくれんぼ大会くらいの価値しかないのだ」
「そんなバカバカしい大会あるんですか、っていうか、兵庫県の皆さんごめんなさい」
「なんちゃら賞の第206回のテーマ『発見』はね、ウケてなんぼなのよ」
そう言うと名越は、突然、くるりと椅子を回転させる。
「これで勝負するか」
そして、すっくと立ち上がると、斜め45度上を見上げ、何もない宙に向かって力強く指差した。
「12月の発表を待て!」
「あの、誰に言ってます?」
【了】
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