第四話「生身の身体」

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第四話「生身の身体」

第四話「生身の身体」 光流は、自分の能力が段々と身体に馴染むような錯覚を感じていた。 今、自分の半径50メートル以内に、何かが来ているという、シンクロニシティを感じていたのもその一つである筈だ。 「父さん……なんか……来たよ。癌細胞が……共振してる……」 「何!以外者か?」 「いや……組織体を移植した人間じゃないかな……向こうはまだ気付いてないみたいだ」 「お前をサンプルとして奪いにきたのか……院内で戦うのは……」 「うん、中庭に誘ってみるよ」 光流はロッカールームでジャニアリーのコスチュームに着替え、中庭に向かった。 イヤホンには、早速理恵の声が割り込んできた。 「へいへい、聞いたよーん!敵だって?」 「他国の兵士……だろうね」 「前回アメリカだったでしょ?どこだと思う?」 「さあ……お隣さんかな。それとも大国か。そろそろむこうも気付いてるよね?」 「お客さん、もう中庭で待ってるよ。17時5分、戦闘開始!今からこの敵を、移植兵士2号と呼称する。中庭が可視可能な窓は既に封鎖完了、回収班、待機完了」 「了解」 中庭に向かうと、敵は土砂降りの中、既に待ち受けていた。 「オマ……ツレテイク、コロして」 見た目は西洋人だった。 歳の頃は30歳後半。 髪は無く、上半身も裸。 片言の日本語を言うが早いが、6メートル程先の位置から、口を開け何かを飛ばしてきた。 「何か」は光流には見えなかった。 しかしながら、光流の身体を大きく吹き飛ばし、壁まで叩き付ける。 「ぐばっっ!」 命中した物がなんなのかは未だ不明だったが、あまりの衝撃に、 光流は転げた。 ここで、誤解の無いように説明しておこう。 光流は、現時点ではあくまで手と腕から、電撃を出せるようになっただけなのだ。 身体は癌細胞のおかげで多少身体能力の少し高い普通の人間で、しかも電撃を素手で出せば皮膚はおびただしい火傷を負う。 コスチユームの、ゴム手袋で遮電を果たし、衝撃吸収材でダメージを軽減しているに過ぎないし、防弾チョッキの上から撃たれてあばらが折れる事もあるように、光流の身体もまた通常の人間と同じように負傷するわけだ。 まして小柄な彼は、民間とはいえ軍人相手には身体能力で分が悪かった。 「光流、大丈夫?あれは、どうやらロシアの民間の移植兵士みたいよ」 「だからあのカタコトか……ねえ、民間も俺を狙ってるの?」 「そりゃそうよ。民間の宇宙ロケット会社だってあるくらいなんだから」 光流は軽口で緊張を紛らわさねばおかしくなりそうな戦いでもあった。 「へえへえ、わっかりましたよ」 二発目の「何か」を飛ばそうとした瞬間、光流は目前に電撃を落とした。 バリバリバリバリッ 雷の落ちる音と共に、衝撃音が鳴り響く。 電撃を手前に落とし、飛んできた「何か」と相殺した。 敵は、衝撃に多少の驚きを見せていた。 「ちょっと!大丈夫?」 「ああ、飛んでくるのを……撃ち落とせたのかな……」 「今分析している限りだと、あいつは水を飛ばしているみたいね。鉄砲魚みたいに」 「だから雨の日に来たんだ……?」 「そうかも!水だけに雨で見え辛いんだ! でも見えるようになったの?今撃ち落としたよね?」 「いやいや、見えないよ。あいつ出す前にちょっとタメがあるからさ。それに合わせただけなんだよね。しかもフルパワーでやっちゃったからちょっとこっちも貯めないと」 そう、電撃はそのまま体力でもあった。 ずっと出し続ける事はできない。 強い電撃を出すならば連続攻撃は不可能だし、電圧を落とす事で攻撃スパンは早める事ができた。 「じゃあ先手でやっつけられないじゃん」 「外したらあれをまともに受けるよ?次食らったらヤバいかも」 「なんで」 「最初の一撃で多分あばら折れたから」 「えーっ……じゃあ秘密兵器を出そうか?」 「泥沼一号かい?」 「イエース!」 「じゃあよろしく」 問題は、時間をかせぐ事だった。 光流……いや、ジャニワリーは電圧を下げ、回数を増やして雷撃を話し続ける事にした。 バリッバリッバリッ! 避ける事に精一杯のロシア人兵士は、攻撃まではしてこない。 強力とはいえ、水鉄砲が武器なだけに、光流のように蓄電してより強い攻撃を放てる訳でもなかった。 されど、この光流の連続攻撃が止まれば、再び水を飛ばしてくる事は間違いなかった。 2分が経過した頃、理恵からの声が飛んだ。 「OK、準備できたよ」 「あと、奴を一秒止めてほしい」 「じゃあ、病院内の非常事態サイレンならすよ」 ウーウー 一秒後には病院中にサイレンが鳴った。 戦時下を経験した軍人程、コンマ何秒かは習性で動きが止まる。 このロシア人兵士も、同じだった。 次の瞬間! 光り輝く雷撃が走った。 だが、ジャニワリーの放った電撃は敵兵士を大きくはずれ、奴の頭上に向かって放たれた……。 ニヤリと笑みが、移植兵士2号の顔に浮かんだのは、当然の事だった。 続く。
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