第五話「決着の後」

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第五話「決着の後」

第五話「決着の後」 中庭での死闘は、終わりを告げていた。 ジャニアリーの放った電撃は、移植兵士2号の頭上に走った。 そこには、理恵の操る、ステルス加工を施したドローンが配置されていたのである。 理恵によって開発、「泥沼一号」と名付けられた避雷針と電圧増幅の役割を果たす新兵器に向けられた電撃は、半径2メートルに雷撃をまき散らし、かつ爆発する。 このサンドイッチに、いかな以外者の細胞を移植された兵士といえども、絶命するしか無かった。 特殊能力を持っていたとしても、基本は人間。 電撃と爆発を浴びれば生きてはいられない。 それは光流も変わりなく、科学や頭脳で敵を倒す可能性を上げて行くしか、生きる術は無かった。 無敵の戦士等居はしない。 光流の目の前では、回収班が移植へ意思2号の死体を回収していた。 「金色に輝く稲妻の力を借りし…漆黒の闇に生きる人外を葬る……って、言いそびれちゃったな……」 「今聞いたよ、あたしは」 イヤホンからで無く、生身の声が後ろから聞こえた。 かけつけた理恵は嬉しそうに光流をハグした。 「良かった、無事で」 「うん……アバラ痛いけどね」 理恵はあわてて抱きしめるのを辞めた。 「そうかそうか。お父さんに診察してもらおうね。他は大丈夫?」 「うん。明日早速、例のキャンプ場に戻らないといけないからね」 「あれ?なんで?」 「聞いてないの?俺がこの間倒した奴、前座だったみたい」 「えー……あれ、前座なの?メインはどんだけキモいのかしら……」 一時間後、診察室。 光流は傷を治す為の幹細胞抽出物と高濃度栄養剤の点滴を受けていた。 エンドレスジャニアリーとして、今まで数日開けずに戦った事等無く、初の連戦に父・真を始めとして、全員が不安を感じていた。 理恵も不安そうに横たわる光流を見守る。 そんな空気を変えようと、光流は元気を振り絞った。 「理恵さん、泥沼一号、凄かったね」 理恵も空元気を振り絞り、テンションを上げた。 「でしょう?でも毎回完全に爆発するのから使い回せないんだけどね。お金かかるわ」 真すらも、テンションを上げていた。 「なに、以外者の細胞から採ったデータは高く国が買い取ってくれるし、医学の役にも立っている。金等いくらかかっても良いんだ。お前さえ無事ならば」 「ハハ……それは言い過ぎでしょ。でもさ……」 光流は、どうしても頭から離れない事があった。 「あの移植人間、俺を殺して持って帰るって言ってたよ。まさか、殺してもいいからって国があるとはな……」 正直、そう口から出たのは光流にとってショックだったからに他ならない。 かつてアメリカ軍と一度交戦した時は、光流に対し生け捕りの指令が出ていた。 殺してでもサンプルをもってこいという国がある事は想像していたが、皮肉にも先ほどの父の話で「以外者」の細胞からいくらの金が産まれるのかを意識せざるを得ない。 賞金首になったような気持ちが、光流の気持ちを暗い沼に突き落としていた。 「あーなんか……嫌だなあ……」 精一杯強がっていたが、点滴に入った睡眠薬で意識が落ちる前にぽろっとこぼした、光流の本音だった。 それを耳にした真は、たまらなかった。 自分の息子を殺してでも連れてこいという国がある。 それは一国では無いだろう。 かけがえの無い息子が、奴らに採ってはただの細胞サンプルでしか無い。 自分が学んだ医学が息子を追いつめている事を、呪うしか無かった。 できる事は何か? 精一杯息子のバックアップをし、以外者の細胞を研究する事で、息子を普通の身体に戻す。 光明はその一点のみ。 癌から救った結果が、命を狙われる結果でもあり、癌細胞から逃れるには、 危険な未知の、以外者そのものと戦って細胞を研究しなくてはならない。 何をどうしても一人息子の命を危険にさらす事が、事態の収束に向かうという事が、真の精神をすり減らしていた……。 翌日。 光流の姿は「あの」キャンプ場にあった。 閉鎖されたキャンプ場。一台の車も無く、がらんとしていた。 しかしそれは、敵の胃袋と比例しているに違いない。 閉鎖されているだけに、獲物を探しているだろう。 だとすれば自分が餌として見える筈。 おびき出しやすいに違いない。 遠くに見つけての一対一なら、泥沼一号もあるし勝算は高いだろう。 ゆっくりとキャンプ場をうろうろと歩く光流の読みは、そうしたものだった。 確かに、その読みは半分当たっていた。 しかし、もう半分は、全く想像していないものだった。 太陽が赤く染まる頃、「それ」いや、「それら」は現れた。 犬やウサギ程の大きさの以外者が、百メートル程の距離にひょっこりと姿を現した。。 大きな一つ目で口は耳まで裂け、指は3本。 ぴょんぴょんと飛び跳ねる動きで、遠くから光流を見ていた。 「一つ目!あれかな?」 よく見るとその後ろからもう一匹。 「つがいか?」 車でスタンバイしている理恵の声が、うわずっていた。 「違うよ、ヤバい」 「え?なんなの?」 「なんか……2百匹ぐらいいるみたい……もしかしてもっと……」 以外者は、後から後から列をなし、光流の方に近づいてきた。 「一対一……じゃない訳ね……凄い数だ………」 初めての、複数の敵との戦いだった。 続く。
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