第六話「蟻とギリギリス」

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第六話「蟻とギリギリス」

第六話「蟻とギリギリス」 以外者達は、わらわらと、次々と、蟻の大群が砂糖に群がるように、光流に向かってゆっくりと近づいてきた。 見通しの良い駐車場の端から端だけに、たどり着くまでにはタイムラグがあるだろうが、光流を視認している事は間違いなく、こちらに向かってきた。 問題は、列が途切れない事だ。 つまりは、それほど大量。 一匹二匹倒しても、全く意味がない程の量。 「こ、これは……ちょっと想定してなかったな……」 光流は五十メートル先まで近づいてきたこの大群を、今すく全滅に追い込める気はしなかった。 「とりあえず逃げるか!」 きびすを返して逃げ出すと、以外者も速度を速めて追ってきた。 「キウキウ、キウキウ」 鳴き声なのか吐息なのかはわからないが、なにかの音を立てながら。 ただ一つわかる事は、獲物を見つけた事でテンションが上がっているようだという事だ。 「とりあえず右方向、30メートル先のバンガローに入ったら?」 理恵はなんとかしたかった。 しかしいかんせん、モニター支援の限界はある。 「ダメだ!取り囲まれるし、ガラス窓なんて意味なさそうだ。一秒も止まってられないよ」 後15メートル程後ろに、以外者達は迫っていた。 「光流、迎えに行くから、一旦逃げよう!」 「こいつら足が速い!逃げられそうに無いよ!水場はどっかにある?」 「その先右方向60メートル先!貯水池あるよ!」 「そこに泥沼2号を頼む!」 と、いきなり振り向き、電撃を放つ! 一匹も仕留める事はできなかったが、それで良かった。 方向転換する時間さえ稼げれば。 光流は池に向かってさらに全力で走り出した。 走りながら、様々な事を考えていた。 あいつらは、小動物同様、そこまで賢くはなさそうだ。 前回倒した奴の方がおそらく人間に近い知能があるような気がする。 という事は、もしかして。 こいつらは最初にイメージしていたメイン、つまり奴の主人なんかではなく、むしろペットみたいなもので、こいつらの捕食用に人間を狩っていたのでは無いだろうか。 だとすると、おびただしい数の人間が消えた事も想像がつく。 以外者は、いつも地球の生物を食料にしている。 地球は今や、食料庫になり果てているのだろうか。 人類は、かつてないほどの危険にさらされているのではないだろうか。 そんな事を考えていると、池が見えた。 「あそこだ!」 だが、既に光流の50センチ近くまで、大群は迫ってきていた。 「光流、まずいよ!もうすぐ捕まる!」 「ハアハア、ハアハア」 返事もできなかった。 池まで後1メートル! しかし、一匹の以外者が、光流の足にしがみついた。 「ヤバい!」 光流は池に向かって大きくジャンプ! 癌細胞による基本の筋力強化と、これまでの走りが助走となり、普通の人間よりもかなり大きく飛ぶ事ができた。 続いて敵も飛ぶ! 大量に連続で飛ぶその様は、まるで断崖絶壁から次々とネズミが飛び降りる、アニメやゲームを見ているようだった。 大量の以外者は、全員貯水池に落下した。 一方、光流のジャンプしたその先には、大型のドローンが待っていた。 光流が捕まっても落下しないパワーのドローン。 これこそが先ほど理恵に指示した泥沼2号だった。 「いくぞ、せーの!」 バリバリバリっ 特大の電撃が貯水池に落ちた。 次の瞬間、ほぼ全ての敵が、ぷかぷかと死体として池に浮かんでいる。 「やったよ。理恵さん」 しかし、ケガと連戦とマラソン、そして特大の電撃。 陸地へ戻るなり、光流はぐったりと倒れてしまった。 回収された光流は、実に帰路の片道5時間、眠りについたままだった。 理恵は、光流の戦闘時、小型のトレーラーとドローンを活用し、光流のアシストを行っている。 トレーラーは光流の移動にも使われており、普段は病院浅瑠生病院に止めてある。 厳重な警戒のもとに。 この日、帰還したトレーラーは、あまりにも光流の疲れが酷かったため、普段の裏口ではなく、急ぐ為に正面の入り口から入った。 急いで光流を運び込もうとしたわけだ。 理恵の中では光流は弟であり家族のような者であり、地球に無くては鳴らない存在だと思っていた。 だからこそ今回だけは正面玄関から迅速に光流を運び込みたかった。 それが、問題の始まりだった。 光流をサンプルとして奪取しようとしていたロシアの民間エージェントが、 変装して玄関に居た。 前日の手下がどうなったかを確認しにきたつもりだったが、眠っている目標を目前にして、気持ちがはやったのだろう。 忍ばせていた銃で意識の無い光流を撃った……つもりだった。 パスン。 気の抜けたような音がした。 あたりの患者や見舞客が、その音に皆注目した。 だが弾は、光流ではなく理恵に当たった。 光流をかばった理恵の、身体の真ん中に。 「あっつ」 そういって滑車のついたベッドの上の、光流に覆い被さるように倒れた理恵。 それは、追撃を更にかばう為にとった行為にも見えた。 「誰か!!!」 と、誰かが叫んだ。 犯人は、騒ぎに怯え消えて行った。 光流は、まだ目を覚まさなかった。 おびただしい血が光流の横たわるベッドを濡らしても。 半分に欠けた月が、実に悲しげに光っていた。 まるで、これから始まる、さらなる悲劇の始まりを知っているかのように。 続く。
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