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第七話「悲しみの果てに」
第七話「悲しみの果てに」
光流は、夢を見ていた。
母親の葬式で泣いて居たとき、理恵が抱きしめてくれた時の事を。
本当の所、光流は、理恵に憧れていた。
美人で頭もよく、明るい彼女。
彼女に対してのイメージが変わったのは、
父・真からその生い立ちを聞いてからだった。
孤児院に居た彼女は、真の立ち上げた奨学金制度によって大学に入り、恩返しのために浅瑠生病院に入り、真の秘書になった。
何不自由無く育った自分を、励ましてくれる人。
だけど、自分は比べ物にならないくらい辛い想いをしてきただろうに。
それを知った時、憧れは尊敬に変わった。
その理恵が、目の前に立っている。
不思議な情景だった。
にこにこしながら涙を流している。
どうしたの?
質問しても返事は無い。
どこか悲しげな笑顔。
明るい彼女にしては、珍しかった。
「理恵さん!」
自分の叫びで目が覚めた。
目の前には、白衣を着た八代瞳が心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
点滴の管が、4本程体に繋がっていたが、気分は悪く無かった。
「俺……寝てたのかな」
まるで理恵のような口ぶりで、瞳は答えた。
「電撃の使い過ぎで血糖値とマグネシウム濃度が異常をきたしたんだって」
光流は少し、面食らった様子を見せた。
「あ、そ、そうなんだ。理恵さんは?」
「その事なんだけど……」
瞳は、理恵が撃たれた事を告げた。
光流は動転した。
「なんだって!俺を……俺をかばって? なんてばかな事を!」
「意識不明なんだけど……問題はね、弾が……以外者の細胞から作られたものだったの」
「いかなきゃ!」
「だから今……あなたと同じく、成長抑制ホルモンを投与して、傷の治療を優先しているの。今は会っても何もできないわ」
瞳のいきなりの変貌ぶりに、ふと疑問がわいた。
「あの、なんで……そんなに詳しくなったの?」
「どうせ首を突っ込んだなら、私をここで働かせてほしいって、あなたのお父さんにお願いしたの。もう両親も居ないし……」
危険から遠ざけようと、あまり説明せずにおいたが、事ここに至ってはもはや隠すだけ意味はなかった。
「それでこの数日、色々勉強して……」
光流は、彼女を内側に入れた父の判断は正しかったのだろうと考えていた。
「そうか……父さんは?」
「大津さんを助ける為に徹夜だったから、さっき出ていった。ちょっと家に帰ってシャワーを浴びてくるって」
光流は、ここ数日、病院の目の前にあるにも関わらず、家に帰っていなかった事に気がついた。
「じゃあ俺も一旦帰ってくるよ。良かったら来る?お手伝いのミクさんになんか作ってもらおうか?」
「行っても……いい?」
この時、時間は朝の8時だった。
ロッカールームで普通の服に着替えた光流は、瞳とともに病院の裏口に向かった。
「これからは、病院も油断できないなあ……」
「みんなから……狙われてるんだってね」
光流はわざと大げさにおどけた感じで答えてみせた。
「うん?まあね。生け捕りにしろって国もあれば、殺して細胞だけ持ってこいって国もあるみたいで。人の事だと思って勝手な事を言ってるよな」
「以外者と移植兵士だっけ。どっちと戦うのが大変?」
「以外者はさ、どんな生物でどんな攻撃とか特徴とかわからないでしょ。そこが大変なんだけど。で、移植者は人間だからコミニケーションがちょっとあったりするとなんかへこむよね。元々兵士だから体力でも負けてるし。だから移植兵士の方が嫌かな」
瞳は、こういった話も身内として認識されたようで嬉しかった。
早朝という時間的に裏口から出たが、表の浅瑠生家までは回り道である。
この僅かな道のりが、もっともっと続けばいいと、そんな気持ちになっていた。
「あの、エンドレスジャニアリーの匂いはなんなの?」
「ああ、なんか戦闘に入るとアドレナリンが出るんだけど、それと癌細胞が反応してああいう匂いがでるみたい」
「そうなんだ……」
「臭かった?」
光流はニヤリと冗談ぽく質問した。
「ううん……」
いい匂い……そう答えるのは、なんだか恥ずかしくて、舌を巻く向くしかできなかった。
瞳は、この会話が、少しでも理恵の事でショックを受けた光流を癒せれば、嬉しい事だと考えていた。
家に着くと、扉を開けるなり、光流は叫んだ。
先に瞳を発見され、勘違いされるのが嫌だったから先手をうったのだ。
「ミクさーん」
返事は無い。
「まだ寝てるんじゃない?」
「いや、年寄りだよ?いつも六時には起きてるよ」
と、この時、癌細胞により強化された光流の鼻は、異変を感じた。
「血の匂いだ!」
匂いの強い方向に走る!
台所には、既に事切れたミクさんが、横たわっていた。
「ミクさん!ミクさん!」
続く
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