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許嫁
現代日本では普通の女子高生だった私、市綱エリカは、目覚めたらゲーム世界の蒸騎、主人公機ロボのAIへ転生していた。
このゲームSGaLは乙女向けではないけど中世っぽい世界を舞台にしているためか、お約束の婚約破棄イベントが実装されている。
そしてその婚約破棄を宣言する男性側が何を隠そう私の推しのヴァーリなんだけど……いや、あのシーンは衝撃的だったなあ。
ただこの手の話は普通破棄した男性側が愚かで問題アリなんだけど、私の推し目線を差し引いてもこの作品に至っては流石の悪役ヴァーリといえど、婚約破棄そのものに非はない。
そもそも断罪されるヒロイン役の、子供の頃からの彼の許嫁のマグノリアが濡れ衣を着せられた、ではなく普通に元凶だからだ。
だって浮気するのが彼じゃなくてこのマグノリアの方なんだよ?しかもそのお相手がゲームの主人公トール。
マグノリアとヴァーリ、そしてトールが三人一緒にいるうちに彼女がトールの方に心惹かれ、許されぬ身分差故に余計火がついて寝取られたという、ゲーム製作者を思わず殴りに行きたい救いようのない展開なのだ。
そしてヴァーリは心に傷を負い、マグノリアとの婚約破棄が彼の闇落ちの原因の一端にもなるという訳だ。
まあこの世界では多分あのヤンデレストーカーAIが、主人公と許嫁が密会するような阿呆な事をせんように見張ってくれる筈なので、こっちはこっちでヴァーリ側の恋愛フラグ管理をきっちりして不幸を回避せねば。
もういっそのこと、今のうちにヴァーリに別の恋人候補を作ってそっちとくっ付けた方がいいのかも。
……というか、ですね。
本日来客があり、イーヴァルディ技師の隣には悪心気ない雰囲気の栗毛の少女、いや幼女が座ってらっしゃいます。
ええ、 件の許嫁マグノリアさんが。いや何故に!?
「あら、オジサマの研究に興味があったので立ち寄ったのですけど、お邪魔だったかしら?」
そう彼女のフルネームはマグノリア・イーヴァルディ。
AI技師イーヴァルディ子爵の兄の娘にあたる令嬢だ。
いやいやお嬢様、大事な技師の血縁者ですし、そりゃ歓迎しますけれども。
「口ではそう言ってるけど、絶対アティシの相手が面倒だと思ってますわよね?」
おいAIの心を読むとか怖いなこの子!
でも舌足らずなアティシ口調は、ちょっと和む。
「ねえモンステラ、アナタって本当にAIらしからぬ反応と考え方をするわね?」
うわあ、そこまで気づかれてしまっていますか。
この子になら前世や転生者の話をしても驚かなさそうだな、しないけど。
「一体何が目的なのかしら。
もしアティシの婚約者狙いなら、渡すつもりはないけど」
おいおい一介のAIの私に対して何ちゅう話をしとるんだ、この子は。
隣で聞いてるのがオジのイーヴァルディ技師だから苦笑ぐらいで済んでるけど、他の人なら頭の中を疑われそうな発言なんだが?
ああでもマグノリア、もし貴女がヴァーリを捨てる事があればその時は遠慮なくお持ち帰りするよ?
「そんな日は絶対来ないと思うけど、その時はお願いしようかしら」
よし言質を取ったからな!
と言っても、本当にそうなった場合にどうするかは現状ノープランなんだが。
AIの私が例えば今後、人間の肉体を手に入れて推しと結婚できたりは……しないよなあ、この世界の技術だと。
一応この先のゲームの展開で、似たようなのが手に入ることになってるけどアレは……ねえ。
ーー何やら面白そうな話をしてるな、アネモネも混ぜてくれ。
とヤンデレからメッセージが届く。
いやアネモネ、まだ未完成の筈のあなたがイーバルディ技師の前に現れたらマズいんじゃないの?
ーーそれなら問題ない。
随分前から技師は寝てるぞ?
ああ、通りでさっきから彼の発言がないと思ったら!
というかマグノリア、あなたが眠らせたの?ああうん、返事はいい。その笑顔で察した。
ーー信用出来る協力者は多い方がいい、折角だから彼女も仲間に引き入れてしまおう。
んー、この婚約者はなんか賢過ぎて情報渡し過ぎると逆に怖い気がするんだよなあ。
ーーアネモネの勘が大丈夫と言っている。
AIが勘とかいう言葉を使うなし!
まあ隠し事して変な疑念持たれて訝しまれたり、あまつさえ敵に回すよりいっかぁ。
既にヴァーリを取られないかと警戒してる節もある訳だし。
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