試運転

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試運転

 擦々(きりきり)という歯車の軋みと、轟々(ごおごお)という蒸気の流れ混む音と共に私の意識が覚醒して、世界と接続(つな)がるのを感じた。 「こんにちわ、お寝坊さん」  暗い世界に唯一光る「画面」の向こうで男性の声がして、右眼に片眼鏡(モノクル)をした顔を見せる。  私より年上だがまだ若い、年齢で言えば二十代前半といったところか。  ……というか、顔が近い近い!画面いっぱいに顔を近づけんなし!  彫りの深い金髪西洋顔で地味に美男子で悸々(どきどき)するんじゃぁ。 「ふふっ、いいねその反応。  とりあえず、試運転は成功みたいだ」  画面の向こうで、嬉しそうに笑みを浮かべるモノクル美男子。  反応……?  果たして私は向こうから、どの様に見えているのだろうか。  そもそも画面にゼロ距離の美顔を見せられた上、置かれた今の状況に無反応でいる方が無理だろう。  ……いやそもそも、ドコだココ?  私は確か女子高の、世界史教師の単調な声を子守唄に昏々(うとうと)していた筈なんだけど、どうも目覚めたこの場所は画面以外真っ暗で、教室でも私の部屋でもないらしい。  ……それに試運転、だと?  その言い方はまるで私が、機械か何かになったかの様ではないか。  でも言われてみれば、先程から自分の身体の感覚が全く感じられない。  まるで肉体を失って、精神だけの霊魂にでもなったかのような。  それでいて目の前のモノクル美男子と画面を通して意思疎通が出来ている状況が、 靄々(もやもや)っとして何とも落ちつかない。 「さて、キミの名前は今日からモンステラ・イーヴァルディだ!」  と嬉しそうに命名宣言するモノクル美男子。  いやいや、私には市綱(いちずな)エリカという歴々(れっきれき)とした名前があるんですけど?  今更気づいたが向こうの声はこちらに届くが、逆に私の声は一切向こうに聞こえていない様だ。 「ちなみにイーヴァルディは子爵である我輩の家名だ。  蒸騎(スチームナイト)のAIは皆、我輩が産んだ娘のようなものだからな」    故にイーヴァルディ子爵の話を一方的に聞くばかりで……うん?  スチームナイト……それにエーアイ?  私は聞き覚えのある言葉を芻々(もぐもぐ)する。  ……そうだ、モンステラ!  それは確かゲームSGaLの主人公トールの乗る蒸騎の名前ではなかったか。  あー、これはアレか。  現代日本では普通の女子高生だった私が、目覚めたらゲーム世界へ転生した?  それもゲームのヒロインでも悪役令嬢でもモブでもなく、そもそも人間ですらなく蒸騎に搭載されるAIとして。  うん、私自身何を言ってるのかサッパリさんだけれども、まずは状況を整理していこう。  
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