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◯どうやらわたしは、この男性の婚約者らしい。
◯どうやらわたしは、この男性と同じ職場に勤めているらしい。
◯そしてどうやらわたしは毎週末、この男性の自宅マンションに連泊しているらしく、化粧品などの身の回りのものは揃っていた。
◯そしてそしてどうやらわたしは、比奈という名前だそうで、昨晩酔って歩道橋から飛び降りた結果、生まれてから昨日までに至る人生全ての記憶を丸ごと失ったそうな。
ベッドから出て、男と一緒に出社するまでに、比奈が得た情報はそれくらい。
酒に飲まれて馬鹿な行動をとった自分を恨むが、後の祭り。
「それじゃあ比奈、今日も仕事頑張ろうね」
と言って比奈の肩をぽんと叩いたその男は、島型レイアウトに配置されたデスクの一番奥、役職者の席で腰を下ろした。自分のデスクがわからず束の間立ち尽くす比奈だったが、ふと手前のデスクに目を落とせば、そこには『風野比奈』のネームプレートが置かれていた。
(あ、ここがわたしの席だ。わたしの苗字って、風野っていうんだ)
座ってみる。
パソコンを立ち上げてみる。
立ち上がるまでに、こう思う。
(どうしようどうしよう!記憶が全然ないのに仕事なんてできるわけないじゃん!そもそもなんだよわたしの職業!今日は一体なにすりゃいいの!?誰か教えてくれよヘルプミー!!!)
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